2020.01.12

負けても心は穏やか。大坂なおみが
全豪OP前哨戦から持ち帰ったもの

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 試合終盤の約40分間、彼女を苛んでいたのは、ひとつの疑念だったという。

 あの時に、全力でサーブを打つべきだっただろうか?

 あえて緩めに打つのは、悪くないアイデアだと思った。相手を驚かせることができたかもしれないのだから。でも、やはりそんなことは、マッチポイントでやるべきではなかったか......。

大坂なおみは試合後に「全力を尽くした」と語った それは今、思い返しても、結局は答えの出ない問いではある。だが、集中力を研ぎ澄ませた濃密な2時間を戦い抜き、その末にようやく手にしたマッチポイントで残した悔いは、心に深く刺さったまま、最後まで抜けることがなかった。

 マッチポイントを逃した次のポイントでは、チャンスボールをネットにかけた。続く打ち合いでもボールをふかし、「キャー!」と叫び声を上げる。

 ブレークを許し、もつれこんだタイブレークを逃した時点で、これまで3試合連続で2時間超えの熱戦を戦い抜いた彼女の身体には、気持ちを奮い立たせるだけのエネルギーが残っていなかったようだ。

「第3セットの時には、まるで私の身体が『どうしてまた、こんなことさせるのよ?』と嘆いているようだったわ」

 幾分決まりの悪そうな笑みをこぼして浮かべて、彼女は「それが、第3セットのすべてだった」と言った。

 今季開幕戦となるブリスベン国際の準決勝で大坂なおみが相対したのは、世界2位のカロリナ・プリスコバ(チェコ)。ツアーきってのビッグサーバーであり、ボールの芯を打ち抜くように強打を放つ、豪快かつ効率的な攻撃スタイルの持ち主である。

 サーブ、もしくはリターンから畳みかけるように攻めるアタッカー同士の対戦は、真剣で切り合うかのような緊張感を生み、試合が進むにつれ、ある種の規律を確立させていた。

 それは、サービスゲームのキープを前提とし、ひとつのブレーク、あるいは重要な局面での1本のミスが試合の趨勢(すうせい)を決めるであろうこと。第1セットは、その規律に綻びのないままタイブレークへと突入し、わずかにリターンで勝った大坂が気合いとともにもぎ取った。