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精根尽き果てた錦織圭。ペールとの
完全アウェーの死闘は孤独だった (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 追い上げムードに水をさされたとはいえ、いいイメージをコートから持ち帰れたのは、錦織のほうだったろう。現に彼は「昨日のいいプレーを続けられるかな」と思い、翌日の試合に向かっていたという。

 だが、対するペールにも、「普通なら錦織が3セットで勝っている試合だった」との思いがあり、だからこそ、命拾いしたチャンスを生かしたいとの決意があった。

「今日は朝から調子がよかった。試合が始まった時も、身体もどこにも痛いところがない。『よし、昨日よりいいサーブを打てば、何かが起きるぞ』と自分に言い聞かせ、実際にそれができた」

 その本人の言葉どおり、曇天に覆われた翌日のコートに戻ってきたペールは、高い集中力を発揮した。長い打ち合いを嫌がらず、なおかつ意外性あふれるドロップショットや強打をも繰り出す。一進一退の神経戦となったタイブレークの末にペールが第4セットを制し、試合は第5セットへともつれこんだ。

 ファイナルセットを迎えた時、錦織は深い疲労を覚えていたという。雨を含み、足もとやボールが重くなったことも、体力を削られた要因だ。

「足が思うように動いてくれなかった。一歩踏み出すステップが遅くなったり、ディフェンスの時に足が動かなかったり......」

 加えて精度を高めたペールのサーブが、精神に重圧をかけてくる。簡単にゲームをキープするペールに対し、錦織のサービスゲームは常にデュースまでもつれ、2度までも相手に先にブレークされる。

「正直、ファイナルセットは勝てると思ってなかった」

 試合後に錦織は、素直に胸のうちを明かした。

 ゲームカウント5−3とリードしたペールが、勝利へのサービスゲームへと向かった時、観客のボルテージは最高潮を迎える。ところが、ここでのペールはファーストサーブが入らず、ダブルフォルトを犯した。

 飄々とした佇(たたず)まいでプレッシャーとは無縁に見えた彼が、この時に戦っていた相手は、制御不能なまでに膨れ上がった勝利への渇望だったという。

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