錦織圭との濃密な6年間。トレーナーが語る「ケガをしてよかったこと」 (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文・撮影 text & photo by Uchida Akatsuki

 テニスでもっとも負担がかかる身体の部位は、腰部です。ATPのデータでも、腰痛が一番多いと出ています。ケガと呼ばれるものには、起点が明確な外的要因による"外傷"と、「使いすぎ」によって起きる"傷害"があります。外傷は足首の捻挫などが多いですが、傷害と呼ばれる慢性的な痛みは腰痛が一番多く、それに付随する股関節などが多い。マリーも、そのケースです。

 テニスで大切な動きは、股関節の使い方です。ボールを打つ時は身体を大きく回転させますが、腰というのは、30度くらいしか捻(ひね)れないんです。対して股関節は、もっと大きく回る。ですから、『腰を回す』という動作は、実は股関節を回しているんです。

 したがって、重要な筋肉も臀部になります。背中の筋肉は小さいですが、おしりの筋肉は大きいので、股関節を回す時はおしりの筋肉を使う。ここをしっかりトレーニングすることが重要ですし、関連してハムストリングや大腿四頭筋、外側広筋などもバランスよく鍛えていく必要があります。

 圭のテニスも、やはり股関節が重要な役割を占めています。そこを鍛えることが大切だと私も感じていましたし、そこはロビー(・オオハシ)とも意見が合った点でした」

 ケガとひとくくりに言っても、"外傷"と"傷害"は異なるもので、外傷はいわばアクシデント的な側面も大きい。錦織が2017年に負った手首の腱の脱臼も、典型的な外傷である。だが同時に、誘発する要因も彼のなかにすでにあった。

 錦織を襲った手首のケガと、チームはどのように向き合ったのだろうか? 

「手首のケガは、スピンサーブを打つ際に起きた外傷でした。腱を覆っている鞘(さや)から、腱が外れてしまったんです。

 治療法に関する私の意見は、手術をしない方向でした。医師のなかには、手術にポジティブ(前向き)な医師もいましたが、MRIから見て固定して保存療法で治すことはできるし、手首はとくに繊細なので、手術すると完全に元に戻るのは難しい箇所ですから。

4 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る