大坂なおみが悔やんだあの1本。2連敗も「幸運」の可能性はまだある

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 時にひとつのポイント、あるいは1本のショットが、勝敗の行方を大きく左右することがある。

 大坂なおみにとっては、WTAファイナルズ2戦目のアンジェリック・ケルバー(ドイツ)戦が、その類(たぐい)の試合であった。

ポイントを奪えずコートでがっくりとうな垂れる大坂なおみポイントを奪えずコートでがっくりとうな垂れる大坂なおみ「スウィングボレーを打ったら、相手が打ち返して......あれは間違いなく、大きなチャンスだった」

 試合から約1時間後に、大坂は悄然(しょうぜん)として振り返る。

「今もまだ、あの1本のことが心に引っかかっている」

 そう深く悔いる件(くだん)のショットは、ファイナルセットの中盤で飛び出した。

 第3セットのこのときまで、試合の流れと両選手の心理状態が生み出す優勢は、間違いなく大坂の側にあった。

 第1セットを落として迎えた、第2セット終盤――。相手がサービスゲームをキープすれば試合が終わる剣ヶ峰から、大坂は3ゲーム連取し、逆転で第2セットを奪い返す。

 第3セットも互いにゲームをキープしながらも、チャンスの数では大坂が上回った。

 とくに、大坂の攻撃的なリターンの前にケルバーが感じた恐怖と重圧は、第3セットで3度冒したダブルフォルトに投射される。ゲームカウント3-3で迎えた第7ゲームでも、大坂が40-15とリード。そしてここでも大坂は、フラフラと上がったチャンスボールを相手コートへと叩きつければ、それでよかった。

 だが、大坂が放った一撃は、オープンコートをカバーすることもあきらめ、その場に立ち尽くしていたケルバーの正面へと飛んでいく。

 もっとも、それでも並の選手なら球威に押され、まともに打ち返すことなどできなかっただろう。だが、ネットの向こうに立っているのは、手首の強靭さと返球能力にかけてはツアー随一と謳われる、3度のグランドスラム優勝者だ。

 ケルバーが打ち返したボールは緩やかな放物線を描き、大坂の頭上を越えてベースラインの内側に落ちる。大坂も必死に背走するが、相手コートに返すことはできなかった。

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