錦織圭、ガスケを退け決勝へ。10年前の完敗があって今がある (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 初対戦での敗戦以降も5連敗を喫し、通算成績で2勝7敗と負け越すガスケとの対戦を、錦織は「チャレンジしていけるので楽しい」と言い表した。弱点が少なく、繊細なタッチから多彩な技を繰り出す天才肌のショットメーカーは、錦織がどこか自分と似た匂いを嗅ぎ取るテニスプレーヤーでもあるのだろう。

 その相手との10度目の対戦は、両者ともに高い集中力で自身のサービスゲームを獲得しあう、緊迫の幕開けとなる。

 ひとつの綻(ほころ)びが趨勢(すうせい)を決めかねない張り詰めた空気のなか、先にチャンスをつかんだのは錦織のほう。だが、手にした3つのブレークポイントを、いずれもガスケの高質のプレーに阻まれる。嫌な予感も胸をよぎるなか、第1セットはタイブレークへとなだれ込んだ。

 今大会のガスケは、ここまでの3試合ですでに5度のタイブレークを経験し、そのすべてをモノにしている。そのデータも頭に刻み込んだうえで、錦織は「プレーのレベルを一層上げなくてはいけない。集中力を高め、なおかつネットに出るなど攻撃的にいく」ことを自分自身に言い聞かせた。

 その冷静さこそが、彼が10年以上に及ぶプロキャリアのなかで蓄積してきた、経験の産物だろう。とくにタイブレークの立ち上がりでは、フォアを深く打ち込むと同時に前に踏み込み、スマッシュやボレーで豪快にポイントを連取した。さらには、「届かないと思うボールも取れている」と自賛する軽快なフットワークで、決まったと思われる相手のショットをことごとく打ち返す。

 もちろん、そのフットワークも、手首のケガで戦線離脱していた間に「トレーニング方法も少し変えながら、長時間取り組んできた」というフィジカル強化の賜物だ。自身のみならず、ガスケも「完璧だった」と声を揃えるタイブレークの末に、錦織が第1セットを奪った。

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