ジョコビッチに負けたけど...。
錦織圭の落胆は「勝てたはず」の裏返し (2ページ目)
思えば、先週のマドリード・マスターズでの対錦織戦の勝利は、今季のジョコビッチが手にした最高位選手からの勝ち星である。相性と言ってしまえば、それまでだろうか。ジョコビッチは「圭の速いリズムと展開力が、自分の集中力と闘志を引き上げてくれる」ことを認めた。
また両者には、「バックのダウンザラインと、オープンコートを作るフォア」という共通の特長もある。その持ち味をふんだんに盛り込んだ第1セットの錦織のプレーは、どうやらジョコビッチに、彼の武器が何であるかも思い出させてしまったようだ。
第1セットからネガとポジが反転したかのように、第2セットではジョコビッチがバックの打ち合いから先にストレートへと展開し、ウイナーを奪う。第1セットで76%を記録した錦織のファーストサーブの確率が、第2セットでは58%まで落ちたことも、流れが反転した一因だろう。全盛期を彷彿させるプレーを見せるジョコビッチが、第2セットを38分で奪い返した。
第3セットは第2ゲームで、錦織に不運な判定がいくつか重なる。続くゲームをジョコビッチがブレークしたとき、プレス席の記者たちも「これで決まった」とでも言うかのように席を立った。
しかし試合は、ここからまだもつれる。勝利を意識し、硬さが見えだしたジョコビッチを攻め、錦織が即ブレークバック。続くゲームも3度のデュースの末にキープし、さらに次の第6ゲームではブレークポイントも手にした。
だが、18本のラリーを重ねた末、最後は錦織のバックがネットを叩く。終わってみれば、この場面が最後の分水嶺(ぶんすいれい)となったろう。1時間6分を要した激闘の第3セットも、ついにはジョコビッチの手に渡る。
思いきって攻めるべきか、あるいは慎重に組み立てるべきか......。複数の要素が複雑に絡み、時々刻々と「正解」も変化する攻防のなかで、結果的に幾つかのチャンスを逃したその悔いを、錦織は「ただの判断ミスです」のひと言に込めた。
試合後の会見室で、ポツリポツリと言葉を絞り出す錦織の姿は、周囲を息苦しくさせるほどに悄然(しょうぜん)としていた。だが、その落胆は裏返せば、勝てる試合だったという手応えの表出でもある。
いつか打開したい――。戦前に口にしていたその「いつか」は、そう遠くない未来に訪れると思わせる敗戦だった。
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