マルチナ・ヒンギス、35歳。20年前に歴史を変えた地、全英へ帰還す (5ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 また、今年5月の全仏オープンで、その穂積と組んでヒンギス/ミルザ組と対戦した日比野菜緒も、こう証言する。

「常に、何かしら意味のあるボールを打っているように感じた。試合の流れもよくわかっているので、こちらの心のなかを読まれているような気がして......」

 16歳で世界の頂点に立った天賦の才に、経験を重ね磨きをかけたからだろうか。ヒンギスの「試合を支配する能力」は今や、ネットを越えて相手コートや心の内にまで及んでいるようである。

 先の全仏オープンで、ヒンギスと組んで男女混合ダブルスを制したダブルスの名手、リーンダー・パエス(インド)は言った。

「彼女のテクニックは素晴らしい。だが、彼女を真の勝者と言わしめるのは、ふたつのこめかみの間にあるもの(頭脳)だ。だからこの"ヤング・レディー"は、これほどのチャンピオンなんだ」

 この賛辞をとなりで聞いていたヒンギスは、素早くジョークで応じる。

「そうね。わたし、17歳になったばかりだもの」

 昨年のウインブルドンで女子ダブルスを制したとき、ヒンギスは、「新しい人生が始まったみたい」と笑った。

 少女のようなモチベーションを胸に抱きながら、その頭脳には、豊富な経験に依拠する膨大なデータを蓄積する35歳――。"第2の人生"を謳歌中の元祖・天才少女は、20年前と変わらぬ天真爛漫な笑顔を振りまきながら、ウインブルドンへと帰還する。

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