ベテラン勢の支配が続く男子テニス。「世代交代の機」はいつだ?

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

「SAbR(セーバー)」――。

 去る9月13日に閉幕した今年の全米オープンの流行語と言えば、このひと言に尽きるだろう。

常に挑戦者として進化し続ける「テニス界の伝説」ロジャー・フェデラー常に挑戦者として進化し続ける「テニス界の伝説」ロジャー・フェデラー「どういう意味だろう?」と英和辞書を調べた方がいたとすれば、見当たらないのも当然。これは、「Sneak Attack by Roger(ロジャーによる奇襲)」のイニシャルから取った造語であり、名付け親は他ならぬ、「ロジャー」その人。つまりは世界ランキング2位にして、今回の全米オープン準優勝者である、ロジャー・フェデラー(スイス)である。

 スニーク・アタック――。「忍び寄るような攻撃」の一の矢は、相手がセカンドサービスのトスを上げたまさにそのとき、音もなく放たれる。ベースラインから前方に走り出したフェデラーは、サービスがコートを叩くやいなや、大胆かつ繊細なラケットワークで跳ね際のボールを返球。さらにフェデラー自身は走る足を止めることなく、瞬(またた)く間にネット際へ。サーバーにしてみれば、打った直後にはボールがすでに自分のコートに打ち返され、しかも目の前には瞬間移動したかのようにフェデラーが立ちはだかっている。

 多くの者はその状況に慌てふためき、あるいはフェデラーの姿に畏怖するかのようにボールを打ち損じてしまう。もしくはなんとか打ち返せても、フェデラーの水も漏らさぬボレーの網の餌食(えじき)となる。9月のニューヨークのセンターコートで幾度も披露されたこの美技に、世界中のテニスファンは興奮と恍惚が交錯する視線を送った。

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