ケガの不安を吹き飛ばした錦織圭のパーソナリティ (4ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by AFLO

「今日の勝利で、生涯獲得賞金が1千万ドルを超えたが?」

 その問いには、困ったように口の片端を吊り上げながら、「お金はあんまり……興味なくはないですが、それより何百勝のほうが嬉しいです」と苦笑いする。

「日本で応援しているファンの皆さんにメッセージを」

 そう頼まれると、「え~~~~」と唸り、「そうですね……」と悩みに悩んだ末、観念したかのように、「応援、ありがとうございます。特には……次も頑張ります!」と照れ隠しのように声を張って頭をかいた。

 そのような一連のやり取りを、最初は真面目な表情で見聞きしていた司会の英国紳士も、思わず柔和な笑みをこぼす。厳格で重苦しかった空気を和やかな色に塗り替えたのは、明らかに錦織が放つポジティブでユーモラスな言動の数々だった。

 初戦は、フルセットの接戦だった。ふくらはぎの状態は、決して100パーセントではないだろう。「ケガは大丈夫です」の本人の発言も、そのまま鵜呑みにはできないかもしれない。だが、錦織の明るい表情と、言葉の端々からにじむ余裕や手ごたえは、素直に信じることができる。

 この日の会見は、次のようなやり取りで幕を閉じた。

「ドローはご覧になったと思います。難しいドローかと思いますが、どんな感想を持ちましたか?」

「ご覧にならないので、わからないです」

 自分に過度な期待やプレッシャーを掛けることなく、目の前の1試合1試合に集中するのみ――。そんな清々しいまでの割り切りと決意が、茶目っ気にあふれた口調と表情の中にも、一本の芯として通っていた。

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