「もう終わった」の声を一蹴。フェデラーはまだ進化していた!

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

「あの子たちが、状況をどれくらい理解しているかは分からないけれど、すごく楽しい試合だったよ」

 試合直後のインタビューにそう応じる敗者の笑顔は、驚くまでに清々(すがすが)しかった。ファミリーボックスでは、5歳の誕生日を2週間後に控えた双子の娘たちが、おそろいのワンピースに身を包み、声援を送り続けていた。家に帰れば、生後2カ月の双子の息子たちも、父親の帰りを待っていることだろう。娘たちが生まれた4年前、当時28歳だった彼は、「子どもたちがテニス選手としての自分を覚えてくれるまでプレイしたい」と言っていたが、その願いは2組目の双子が誕生したことで、さらに数年伸びることになるはずだ。

鮮やかなサーブ&ボレーで観客を魅了したロジャー・フェデラー鮮やかなサーブ&ボレーで観客を魅了したロジャー・フェデラー 2014年ウインブルドン選手権――。ロジャー・フェデラー(スイス)は決勝戦でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に敗れたものの、全盛期を彷彿させる華麗なプレイで客席から感嘆のため息を誘い、その実力と存在感を改めて世界に証明した。

 フェデラーに関しては、いまさら多くの説明を必要としないだろう。グランドスラム17回の優勝は史上最多。通算302週の世界ランキング1位在位期間も最長記録。それら記録のみならず、ライバルのラファエル・ナダル(スペイン)を含めた選手や識者たちが「パーフェクトなプレイヤー」と称賛する、テニス史上最高選手との呼び声も高い「生きる伝説」である。

 このミスター・パーフェクトに不幸な点があるとすれば、それはあまりに君臨した時代が長かったため、少しでも成績やパフォーマンスに陰りが見えると、「もはやフェデラーも終わりか?」などの性急な斜陽論が飛び出すことだ。ただ、実際に昨年はグランドスラムで一度も決勝進出がなく、ウインブルドンでは2回戦、全米オープンでも4回戦で敗れていた。今シーズンをランキング7位で迎えたフェデラーに向けられるファンの熱い声援は、「Xデー」への恐れと表裏をなしているようでもある。

 そのような外野の論調を知ってか知らずか、フェデラー本人はいくつかの変革に取り組むことで、未知の自分の開拓に取り組んだ。

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