【テニス】前人未到の全仏V8。ナダルが赤土で最強な理由 (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AP/AFLO

 ナダルは叔父が望むとおりの、いや、恐らくはそれ以上のアスリートに成長し、今回の全仏でキャリア通算12のグランドスラムタイトルを手にした。それら12の優勝のうち、全仏が占める数は8。これは、全豪、全仏、全英、全米すべてを含め、一人の選手が1大会で優勝した最多回数である。

 ナダルが全仏初優勝を果たしたのは、初めて参戦した19歳の時のこと。それ以降、ナダルはこの大会で60試合戦い、僅か1回しか負けていない。彼が「ザ・キング・オブ・クレー」と呼ばれる所以(ゆえん)である。

 なぜ、ナダルはここまで全仏で強いのか――?

 誰もが抱き、これまでもナダル本人に多く浴びせられてきたこの疑問を解く鍵は、この大会のコートの特異性にある。褐色の土で覆われた"レッドクレー"は、一般的なハードコートに比べて足元が滑りやすく、ボールはバウンド後に砂の粒にスピードを削られ、高く跳ねる。その帰結として、一発のショットではなかなかポイントが決まらず、ラリーが長引きやすい。ボールの芯をクリーンに打ち抜く選手より、スピンを掛けた重いボールを打つパワー型に有利なコートだとも言われる。つまりレッドクレーの試合とは、長く、過酷で、肉体を酷使するものになりやすい。文字通り"泥臭い"戦いが求められるのだ。

 ナダルは心技体あらゆる面で、このレッドクレーに適した要素を備えている。

 まずは何より、赤土で育ったという天与の適正がある。クレーコートで最も重要とされるフットワークを、幼い頃から培ってきた。ハードコートに慣れた選手が「滑る」と不平をこぼす足元も、クレーのスペシャリストにかかれば、スライディングすることで移動距離を伸ばせる利点となる。例えば今大会準決勝のジョコビッチ戦でも、オープンコートに打ち込まれた強打をスライディングで追いつき、ラケットの先にひっかけるようにして相手の頭上を抜く奇跡的なウイナーが飛び出した。ナダルの脚力とクレーでの走り方、そして最後まで絶対に諦めないメンタリティがあってこそ生まれた一打である。

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