【テニス】5度目の対戦。錦織圭がナダルを本気にさせたワケ (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki
  • 神仁司●写真 photo by Ko Hitoshi

「すごく緊張していた。プロの腕がどれぐらいかも分からず、ナダルも名前ぐらいしか知らなかった。でも、若いころにトップの球を味わったのは、絶対に大きかった」

 自分が何者かもまだ知らなかった少年は、このとき、「ナダル」という存在を通し、世界の頂きを覗き見た。幼いころから憧れを募らせ、「ここで活躍するのが昔からの夢だった」と語るローラン・ギャロス(全仏オープン会場)のセンターコートで5度目の対戦が実現したことも、そしてその日がナダルの27回目の誕生日だったことも、時代が仕組んだ「運命」なのだろう。

 過去の対戦成績は4戦全敗であるものの、これまでのナダルとの一戦は、常にスコア以上の熱を帯びた接戦であった。それは錦織が失う物のない挑戦者として、王者にガムシャラに向かっていった結果でもある。過去4戦でナダルが驚異的なフットワークと鉄壁の守備で対応した試合内容も、錦織の戦い方に迷いがなかった理由だろう。

「リスクを負ってでも、攻めないといけない」

 それがナダルと対戦するにあたり、錦織がこれまで再三、口にしてきたことだ。

 だが、5度目にして、初のクレーでの対戦となったこの日の試合は、これまでとは少し様子が違っていた。錦織のボールは鋭く深く、左右に激しく打ち分けてもいる。だがそれは、これまでのように半ば玉砕覚悟の攻撃ではない。攻め急ぐことも守りに入ることもなく、じっくりと腰を据え、伍(ご)して戦う覚悟がプレイからにじみ出ていた。あるいはそれは、大会第13シードの矜持(きょうじ)と言い換えられるかもしれない。この試合最初のポイントを奪ったのは、錦織。ストロークでジリジリと押し込んだ末に、ネットに詰めて叩き込んだ鮮やかなボレーである。

 また、先に大きなチャンスをつかんだのも、錦織だ。第1セットの第4ゲーム。ナダルのバックにボールを集めてからフォアに振り、ミスを引き出してふたつのブレークポイントをもぎ取った。結果的にはブレークに至らなかったものの、錦織は赤土の王者と十分、互角に渡り合っていた。

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