【テニス】錦織圭をベスト8に導いた3つのカギ (3ページ目)

  • 内田 暁●文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 昨年終盤から今も続くその急成長には、3つのカギが存在する。

 ひとつは、精神面だ。今大会が始まる直前、コーチのダンテ・ボッティーニに「何が最も変わったか?」と聞いたところ、彼はニヤっと笑って人差し指で頭を叩き、「ここだよ」と言った。相手の状態や試合の流れを見て、正しいショットの選択ができる。同時に、トップ選手に勝ってきたことで、自分を信じる力がついた。それが何より大きいと、昨年1年間、錦織を見てきたコーチは明言する。
 
 ふたつ目のカギは、フィジカル。昨年末のオフシーズン、錦織は約2週間、ラケットを握らずトレーニングのみに汗を流した。その主眼は、スタミナをつけると同時に、体幹と臀部(でんぶ)を鍛えることにあった。体幹が強くなればバランスも良くなり、無理な力を入れずにクリーンなショットが打てる。また臀部の筋力は、左右に振られても崩れることなく、強いショットを打つのに不可欠だ。

 そして最後に、サービス。昨年3月から錦織は、スピードと安定感を求め、新しいサーブフォームに取り組んできた。慣れるまでに時間を要したが、体幹や臀部の筋力上昇に伴い、この新フォームが完成に近づいている。「以前より安定して、スピードもある」と、トレーナーの今弘人氏もサービスの向上を認めていた。

 試合開始から3時間近く経過し突入した、第5セット。だが、錦織に疲労の色はなく、フットワークも衰えない。むしろ疲れを感じさせたのは、体力に勝るはずのツォンガだった。

 ギアを入れるタイミングも、完璧だ。第4ゲーム、相手のフォアが乱れポイントを先行すると、ここを勝負どころだと見て強打を連発。相手にポイントを与えることなく、ブレークに成功した。そして以降は、自身のサービスゲームに専念。相手に比べればスピードで劣るものの、錦織は時折120キロ台のサーブも交ぜることで、190キロ台のサーブを最大限に生かした。さらに試合終盤にきても、スピードは落ちるどころか、逆に速さを増していく。そしてセットカウント5-3で迎えた、サービスゲーム。この局面で錦織は、この日最速となる時速197キロのサーブを打ち込み、この日唯一のエースを決めたのだ。

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