日本戦の悪夢から4年。南アフリカを蘇らせた指揮官と黒人主将の絆 (3ページ目)

  • 斉藤健仁●取材・文 text by Saito Kenji
  • 齋藤龍太郎●撮影 photo by Saito Ryutaro

 エラスムスHCは当時を思い出しながらこう語った。

「(小さな頃のコリシは)食べ物がなく、学校にも行けず、履く靴もなかった。だが、今は南アフリカ代表のキャプテンだ。そして彼はチームを率いて、優勝カップを抱くことができた。1年半前に監督を引き継いだ時、W杯まで618日だった。それに合わせて(コリシと)勝利のプランを立てた」

 その言葉に対し、コリシは「最初のミーディングを覚えている」と言う。

「個人の目標よりもスポリングボクスというチームを大切にしてほしいと(エラスムスHCは)言った。お金を使ってプレーを見に来てくれているので、全身全霊をかけてプレーしないといけないとも言っていた。監督はいつも正直で、本当に心強かった。南アフリカ代表を変えてくれた」

 エラスムスHCが就任すると、南アフリカ代表の勝率は徐々に上がっていった。そして2019年7月に開幕した南半球4カ国対抗戦「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」では、ニュージーランド代表に引き分けてオーストラリア代表とアルゼンチン代表に勝利。2009年大会以来の優勝を飾った。

 そして大会本番。予選プール初戦でニュージーランド代表には13-23で敗れた。それでも、エラスムスHCが「負けて多くを学ぶことができた」と振り返ったように、課題を少しずつ修正して決勝まで駆け上がった。

 南アフリカ代表のこの4年を振り返ると、実力は優勝候補筆頭というほどではなかった。大会直前のザ・ラグビーチャンピオンシップに優勝するとW杯では勝てない、というジンクスもあった。「予選プールで1度でも負けたチームは優勝できない」「南アフリカ代表は決勝では過去ひとつもトライを挙げていない」という前例もあった。

 だが、そういったネガティブな要素を振り払い、南アフリカ代表は低迷期からV字回復を果たして栄冠に輝いた。その背景には、黒人や非白人という人種の壁を越え、「南アフリカ全国民のために優勝したい」と常々話していた、指揮官と主将の強固な信頼関係があった。

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