パリオリンピック卓球女子団体 押しつぶれされそうだった張本美和はいかにして「壁」を乗り越えたか (2ページ目)
【呪文を唱えて活力を与えた】
「平野選手、頼もしいなって感じています。オリンピックは2回目なので、東京大会の経験が生きているんですよね。(試合に向けて)計算をしながら、うまく調整できているので、本当に強い」(渡辺武弘監督)
試合が終わると、平野はコートサイドで次の出番を待つ張本に駆け寄り、勝利後の高揚感のまま、盛んに声をかけていた。ラケットを激しく動かす平野の様子を見つめていた張本が、少しだけ笑顔を見せる。重圧に押しつぶされそうになっていたのだ。
「自分の第2試合では、負けて悔しかったです。悔しさよりも、第4試合目で自分の番に回るので、プレーを切り替えられるか、とても不安で......。平野さんに『思いきって』と声をかけてもらったおかげで、試合を乗りきることができました」
張本はその心境を明かしている。第4試合の第1ゲーム、序盤こそショックを引きずっていたが、「思いきって」という呪文を唱えることで、自らに活力を与えた。
「第4試合は相手が毎球、毎球が異質な選手だったし、1ゲーム目は途中まで(3-8と)すごいリードされていたので、"この試合も負けてしまうんじゃないか"と頭によぎったんですけど、"最後の1球まで諦めない"がオリンピックの目標なので、平野選手からかけてもらった、『思いきって』というひと言を心の中で繰り返しながら戦えて、挽回できたのかなって思います」
そこからの張本は、「天才少女」と言われる本来の姿だった。第1ゲームを8連続ポイントで逆転、11-8で奪うと、第2ゲームは相手をサーブ、バック、フォアで圧倒し、11-5と勝利。第3ゲームは驚異の攻めを見せ、11-0と完勝し、3-0とストレート勝ちだった。
「(10-0でマッチポイントになったのは)1球、1球を考えていたんで、そうなんだって(笑)。『思いきって、1球でやるべきことをしよう』とだけ考えていました。最後の1球まで諦めずに戦うことができました」
張本は涙ぐみそうになりながら、こう言葉を継いだ。
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