桃田賢斗が日本代表活動から引退 無敵の世界王者時代、悪夢の交通事故...激動の10年を経て最後の国際大会に挑む (2ページ目)

  • 平野貴也●取材・文 text by Hirano Takaya

【中国の大観衆を黙らせた、圧倒的なシャトルコントロール】

 2018年、19年の2年間は、無敵と言ってもいい強さを誇った。世界選手権の優勝は、2回とも現地で見ていたが、会場に放たれる存在感は圧倒的だった。

 2018年の初優勝は、中国・南京市での開催。決勝戦の相手は、中国の次代のエースとして台頭して来た石宇奇(シー・ユーチ)だった。

 新たな中国人世界王者の誕生を期待する大観衆は、石宇奇がスマッシュを打つと「ウー、ヤァー!」と選手のモーションにタイミングを合わせた掛け声で後押しした。しかし、直後に静まり返ってしまう。桃田がレシーブしたシャトルは、相手コートのネット前にきっちりとコントロールされて落ちるのだ。

 コートの後方から強打を打ったばかりの石宇奇は間に合わず、辛うじて拾い上げるように返球できたとしても、桃田に上から攻められた。同じシーンが繰り返されるうち、中国の観客は、チャンスがチャンスにならず、ピンチにしかならない試合をどう見ればいいのか戸惑うようになり、歓声は鳴りを潜めた。

 バドミントン王国である中国のファンが、完敗を認めざるを得ない勝ちっぷり。相手のエースショットを軽々とコントロールする様は、2-0のスコア以上に、格の違いを感じさせた。それは、同時に、世界が新たなスターの誕生を確信した瞬間だった。

 2016年のリオデジャネイロ五輪ごろまで、男子シングルスは3強の時代だった。2008年、12年に五輪を連覇、世界選手権で5度優勝した林丹(リン・ダン=中国)、五輪で3大会連続の銀メダルを獲得し、スーパーシリーズファイナルズを3連覇したリー・チョンウェイ(マレーシア)のふたりに、リオ五輪金メダルの諶龍(チェン・ロン=中国)が加わった勢力図だ。

 彼らが下り坂に差し掛かるなか、次代のスター誕生が期待されていたタイミングでもあり、世界のバドミントンファンが桃田に注目し、大きな期待を寄せるようになった。

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