卓球女子のパリ五輪代表選考レースが激化。早田ひなが首位独走も、全日本でライバルたちの巻き返しなるか (3ページ目)

  • 高樹ミナ●文 text by Takagi Mina
  • photo by T.LEAGUE/アフロスポーツ

【女子日本のエース伊藤の復調は? 平野も猛追】

 早田がギアを上げる一方で、苦しんでいたのは伊藤だ。

 女子日本のエースとして東京五輪に全身全霊を傾け、燃え尽きた。1大会で金・銀・銅3個の五輪メダル獲得という偉業に日本中が沸き、周囲はすぐにパリ五輪への期待を口にしたが、伊藤本人はその気になれず卓球から離れる選択さえも頭をよぎった。

 結局は、シングルスで金メダルを獲れなかったことが心残りで、パリ五輪を目指すことを決意。しかし、代表選考レースが始まった昨年3月時点ではまだ完全に気持ちが定まらず、第1回選考会で5位、続くパリ五輪選考ポイント対象のTリーグ個人戦もベスト8で敗退と精彩を欠き、この2大会で優勝した早田と40ポイントの差が開いた。

 そんな伊藤も第2回選考会では本領を発揮して優勝。ところがその後、国際大会と国内選考会のスケジュールが過密になり心身ともに疲弊した。

 とりわけ、世界選手権成都大会団体戦(2022年9月30日〜10月9日)は消耗が激しく、帰国直後に出場したパリ五輪の第3回選考会で6位に沈み、「精神的にも身体的にも疲労がたまりすぎて、頭も働きづらいしボロボロ」と涙ながらに訴えた。

 過密スケジュールの影響は早田にも及んだ。世界選手権成都大会の途中で利き腕の左上腕三頭筋を痛めてプレーできない状態になり、約1カ月間の休養を強いられたのだ。「競技を始めてから、全くラケットを握れなかったのは初めて」と明かした早田にも、やはり疲労が蓄積していた。

 一方で調子を上げたのが平野だった。パリ五輪選考レース序盤で出遅れた平野は、世界選手権成都大会出場を逃したが、2022年4月に日本生命から木下グループに所属先を変え、練習環境が変わったことでプレーにもいい変化が起きた。選考レースでは目下、2位の伊藤に8.5ポイント差に迫る勢いだ。
 
 そんなパリ五輪代表選考レースは、全日本選手権から激しさを増す。今年から全日本選手権が選考ポイントの対象になるからだ。さらに選考会やTリーグのポイントは2倍になる。たとえば、選考会1位に与えられるポイントは昨年の50ポイントから100ポイントに倍増。形勢逆転も十分にある女子のパリ五輪代表選考の行方はいかに。

●2023年のパリ五輪シングルス選考対象大会

・全日本選手権大会:1月23〜29日/東京体育館

・第4回選考会:5月6〜7日/トッケイセキュリティ平塚総合体育館

・世界選手権ダーバン大会(個人戦):5月20〜28日/南アフリカ

・Tリーグ個人戦:調整中

・第5回選考会:調整中

・アジア競技大会:9月23日〜10月8日/中国・杭州

・アジア選手権大会:調整中

・第6回選考会:12月6〜17日/北九州市立総合体育館

・2023-2024シーズンTリーグ:2023年12月末まで

・中国トップ3(世界ランキング上位3人以内)の選手に勝利した国際大会

●2024年のパリ五輪シングルス選考対象大会

・全日本選手権大会:調整中

【著者プロフィール】

高樹ミナ(たかぎ・みな)

スポーツライター。千葉県出身。競馬、F1、プロ野球などを経て、00年シドニー大会から五輪・パラリンピックを現地取材。主に卓球、トライアスロン、車いすテニス、義足競技等を専門とする。16年東京五輪・パラリンピック招致委員会在籍。執筆活動の他TV、ラジオ、講演等にも出演。自著に『卓球ジャパン女子』(汐文社)。『ポジティブラーニング』(松岡修造/文藝春秋)、『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)、『美宇は、みう。』(平野真理子/健康ジャーナル社)他で企画・構成。日本スポーツプレス協会(AJPS)、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員。猫とお酒をこよなく愛する。

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