日本卓球女子の「陰」の存在だった長﨑美柚が飛躍。伊藤美誠ら黄金世代に食い込んでパリ五輪出場を目指す (3ページ目)

  • 高樹ミナ●文 text by Takagi Mina
  • photo by 新華社/アフロ

【課題は「格上の選手といかに戦うか」】

 卓球のパリ五輪代表選考ポイントは国内選考会を柱に、全日本選手権大会とTリーグのシングルスおよび個人戦大会、さらに世界選手権、アジア競技大会、アジア選手権といった国際大会のポイントが加算される。

 そのため、選手たちは国内でも海外でもポイントを稼がなければならず、過密スケジュールに追われている。過酷な代表選考レースで長﨑がパリ五輪への道を拓くカギ。それは、自分よりも格上の選手といかに戦って白星を奪うかにある。

 手がかりは世界選手権成都大会の決勝で初対戦した、世界ランキング1位の孫穎莎との一戦に見られる。結果は孫のストレート勝ちだったが、長﨑にはスコア以上に価値がある気づきがあった。

 まず、サーブからの3球目、5球目攻撃。サーブを起点に仕掛ける長﨑に対し、孫はボール1個、時には半個分のレベルで微妙に打球の高さや回転量を変え、長﨑のタイミングを崩し、チャンスボールを狙ってきた。

 以前の長﨑であれば成す術なく引き離されていたかもしれない。だがこの試合の長﨑は、ゲーム序盤の「攻めないと勝てない」という焦りが、「攻めていない時でも得点できている」と気づいたことで消え、第3ゲームは自らテンポを変えて孫のミスを誘うことができた。

 長﨑は「相手も人間だな、と思った」と振り返ったが、それは格上の選手と戦う上でとても大事な感覚だ。

 もうひとつ、頭ではわかっていても実感として掴めたというのが、「自分のしたいことや得意なプレーよりも、相手が何をしてきているかを見抜くことが先。相手のやってくることを読んで意外性を出していくことが必要」という点である。

 こうして自信をつけた彼女は、もはや陰の存在などではない。パリ五輪に向け勝負の年となる2023年は、光を放ちながら進んでいくのだ。

【著者プロフィール】

高樹ミナ(たかぎ・みな)

スポーツライター。千葉県出身。競馬、F1、プロ野球などを経て、00年シドニー大会から五輪・パラリンピックを現地取材。主に卓球、トライアスロン、車いすテニス、義足競技等を専門とする。16年東京五輪・パラリンピック招致委員会在籍。執筆活動の他TV、ラジオ、講演等にも出演。自著に『卓球ジャパン女子』(汐文社)。『ポジティブラーニング』(松岡修造/文藝春秋)、『転んでも、大丈夫』(臼井二美男著/ポプラ社)、『美宇は、みう。』(平野真理子/健康ジャーナル社)他で企画・構成。日本スポーツプレス協会(AJPS)、国際スポーツプレス協会(AIPS)会員。猫とお酒をこよなく愛する。

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