鋭い観察眼と勘で勝つ。伊藤美誠が楽しむ卓球で異次元の強さを見せた (2ページ目)

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • 中村博之●撮影 photo by Nakamura Hiroyuki

■ポテンシャルの高さを証明した14歳の"勝負師"

 早田と共に、今大会で強いインパクトを残したのが木原美悠(JOCエリートアカデミー)だ。

 世界ランクこそ85位だが、2年前に皇后杯を獲得し、世界ランク9位の平野を5回戦で下す(セットカウント4-1)と、そこから快進撃が始まった。

 兵庫県明石市出身。4歳の時から父親の博生さんが開く卓球教室でラケットを振り始め、小学5年生で出場した全日本選手権女子シングルスで2勝を挙げたことで全国的な注目を集めた。中学からは東京のエリートアカデミーで腕を磨き、Tリーグでは木下アビエル神奈川の一員として出場。そんな14歳が今年の全日本選手権でポテンシャルの高さを証明したのが、佐藤瞳(ミキハウス)との準々決勝である。

 日本屈指のカットマンで、世界ランク12位の佐藤のリズムに翻弄された木原は、ゲームカウント1-3と追い込まれてしまう。だが、後のなくなった状況から木原は思い切った戦術に活路を見出した。

 カットマンを相手にあえて持久戦を挑み、「促進ルール」が適用される展開に持ち込んだのだ。「促進ルール」とは、試合が長引くことを防ぐためのルールで、ラリーが13往復続いたら自動的にレシーブ側の得点になるシステムである。それまでのゲームで木原は体力をかなり消耗していたが、焦って無理な攻撃をしかけてくる佐藤のミスを誘うと、残りのゲームを連取して見事な逆転勝利を飾ったのだ。

 14歳とは思えない打球の強さに加え、大一番で思い切った戦術を取れる"勝負師"としての資質も見せた木原は、準決勝でも森さくら(日本生命レッドエルフ)を4-2で破り、史上最年少で決勝の舞台に進んだのである。

 決勝の顔ぶれが決まったとき、新たな歴史が刻まれる予感がなかったわけではない。高い能力に裏打ちされた木原の若さと勢いを、1年前に木原と同じ中学2年だった張本智和(木下マイスター東京)が、史上最年少で男子シングルスを制した記憶と重ねた人もいただろう。

「全日本は厳しくて、怖い大会だと思いました」

 その張本が準決勝で大島祐哉(木下マイスター東京)に敗れ、連覇の夢を絶たれた際に口にした苦悩も、その余韻をコートに残していた。

「まさか、この年齢で年下の選手と全日本の決勝で当たるとは思ってもいませんでした」

 伊藤も木原の躍進をそんな驚きと共に受け止めたが、"怪物"と呼ばれた張本でさえ苦しんだ全日本の重圧をあっさり受け流し、14歳の挑戦者の高き壁になった。

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