中国キラー・伊藤美誠をつくった「バケモノのような選手」にする訓練 (5ページ目)

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • photo by Reuters/AFLO


未来の目標を現実に。いつか、世界の頂点に立つ日がやってくる

 磐田市の実家を訪ね、訓練に明け暮れた幼少期の思い出の品を見せてもらったことがある。そのなかで、筆者の印象に最も強く残ったのが、伊藤が4歳のときに作った「みまがんばりひょう」である。

 頑張って達成すべき目標と、それによって伊藤にご褒美として与えられるポイントがそれぞれ刻まれている。

 例えば「まま、ひだりてにかつ」をクリアできれば0.5点、「ふぉあ200かいつづける」で3点、「まま、みぎてにかつ」で5点といったように、難しい目標をクリアするほど高ポイントを獲得できる。そこまでは4歳の目標として理解できたが、驚いたのは、遠い先の未来にまで目標が設定されていたことである。

「ぜんにほんよせんつうか」は30点、「ぜんにほんべすと16」は100点、「ぜんにほんちゃんぴおん」は300点、そして最高得点である1000点が獲得できる課題は、「せかいちゃんぴおん」となっていた。

 どんな人間も未来を予測することはできない。だが、この「みまがんばりひょう」を作った10年あまり後に、娘は本当に全日本チャンピオンになり、皇后杯を掲げるとともに300点を獲得したのだ。こうした現実は当然、さらにその先への期待につながっていく。

 昨年4月のアジア選手権で、中国のトップ3を倒して優勝した平野美宇が徹底的に研究されたように、中国は伊藤の卓球を今まで以上に丸裸にしようとするだろう。

 だが、彼女のスタイルの源流にある母の思いと、彼女自身の自由な感受性は外部から覗くことはできない。最新の世界ランクで5位に名を連ねた伊藤がさらなる研鑽を重ね、そのオリジナリティをこれからも更新していければ、こう振り返る日が来るかもしれない。

 ハムスタッドでの勝利は、1000点を獲得する物語の序章だった、と。

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