NBA伝説の名選手:マルク・ガソル 多彩なスキルと献身性でグリズリーズの球団史に名を刻んだビッグマン
グリズリーズの球団史に名を刻むキャリアを送ったガソル photo by Getty Images
NBAレジェンズ連載39:マルク・ガソル
プロバスケットボール最高峰のNBA史に名を刻んだ偉大な選手たち。その輝きは、時を超えても色褪せることはない。世界中の人々の記憶に残るケイジャーたちの軌跡を振り返る。
第39回は、メンフィス・グリズリーズの歴史に、その足跡を刻み込んだマルク・ガソルを紹介する。
【主力の一角としてグリズリーズをプレーオフの常連に】
NBAのウェスタン・カンファレンスに所属するメンフィス・グリズリーズは、かつて渡邊雄太(現・千葉ジェッツ)、今シーズンからは河村勇輝(ツーウェイ契約)と日本人NBA選手がふたりも在籍してきた、日本でも馴染みのあるチーム。
前身のバンクーバー時代の1995-96シーズンからNBAに参入し、2024-25シーズンで創設30年の節目を迎えているが、その球団で数多くのフランチャイズ史上最多記録を保持しているのがマルク・ガソルだ。
1985年1月29日、スペインのバルセロナでマルクは生誕。元バスケットボール選手の父アゴシは190cm、母マリサ・サエスは185cmと長身を誇り、兄パウ、弟のアドリアもバスケットボール選手だ。
母が医者、父が看護師という環境で、マルクは5つ上のパウと切磋琢磨し、バスケット選手として互いに成長していった。パウが2001年のNBAドラフトされたことを機に(アトランタ・ホークスから指名後にグリズリーズへトレード)、一家はスペインからテネシー州メンフィスへ引っ越し、マルクはメンフィスにあるローザンヌ大学付属学校へ進学する。
パウがNBAで新人王に輝く一方、マルクは "ビッグ・ブリトー"の異名がつけられるほど体重過多だった。だが、努力家のマルクは最大350ポンド(約158.8㎏)あった体重を270ポンド(約122.5㎏)まで落とした。
高校卒業後、マルクはアメリカの大学には進学せず、スペインのFCバルセロナ、CBジローナで経験を積んでいく。2007年のNBAドラフトではロサンゼルス・レイカーズから指名を受けたが、2巡目全体48位という低位置だった。
当初は「ドラフトは気にしていなかった」と話していたマルクだが、同期のビッグマンたちよりも実力で上回っていると自信を抱いていたこともあり、予想外の低評価に「あのドラフトで僕の競争心が芽生えていったんだ」と当時を振り返る。
指名直後の2007-08シーズンは、ジローナでプレー。平均16.6得点、8.4リバウンド、2.5アシストを残したマルクは、シーズン中の2008年2月に兄パウと入れ替わる形のトレードでグリズリーズへ移籍し、翌2008-09シーズンにNBAデビューを果たした。
マルクはNBA1年目から主に先発センターとして起用され、レギュラーシーズン全82試合に出場。平均11.9得点、7.4リバウンド、1.7アシスト、1.1ブロックを残してオールルーキーセカンドチームに選出されるなど、グリズリーズ不動の先発センターに定着した。
マルクはマイク・コンリー(現ミネソタ・ティンバーウルブズ)、ザック・ランドルフ、トニー・アレンと"コア4"の一員となり、グリズリーズは2010-11から2016-17まで7シーズン連続でプレーオフ出場を飾る。
当時のチームは"Grit and Grind"(闘志を持ち、気骨なプレーをするという趣旨)がテーマで、粘り強く、最後まで戦い抜くタフな集団となってプレーオフ常連チームとなった。なかでも2012-13シーズンには球団史上最高成績に並ぶ56勝26敗(勝率68.3%)をマーク。リーグ屈指のディフェンスチームとして存在感を発揮し、その象徴となったマルクは最優秀守備選手賞を受賞。プレーオフでも、グリズリーズは球団史上初のカンファレンス決勝進出を果たした。
グリズリーズで約11シーズンをプレーしたマルクは、2018-19シーズン途中のトレードでトロント・ラプターズへ移籍。カワイ・レナード(現ロサンゼルス・クリッパーズ)やカイル・ラウリー(現フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)らと主力を形成し、2019年の球団史上初のNBA優勝に大きく貢献する。
2020-21シーズンにレイカーズでプレーしたマルクは、2021年9月のトレードでグリズリーズへ帰還後にNBAから離れ、母国スペインのジローナで2シーズンをプレーして2024年1月末に現役を引退した。
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著者プロフィール
秋山裕之 (あきやま・ひろゆき)
フリーランスライター。東京都出身。NBA好きが高じて飲食業界から出版業界へ転職。その後バスケットボール雑誌の編集を経てフリーランスに転身し、現在は主にNBAのライターとして『バスケットボールキング』、『THE DIGEST』、『ダンクシュート』、『月刊バスケットボール』などへ寄稿している。