河村勇輝のNBA挑戦をキーワードで紐解く〜アメリカ未経験、身長172cm、グリズリーズの状況、Gリーグ行き〜 (3ページ目)

  • 宮地陽子●text by Miyaji Yoko

【河村の適応力と成長のスピードはNBAでも!?】

 この数年の河村で特筆すべきなのは、環境への適応力と成長のスピードだ。大学からBリーグに舞台を移し、さらに日本代表に選ばれ、次々と高いレベルでプレーするなかで、環境にすばやく適応し、日本国内だけでなく世界のトップスターたちと渡り合えるような力をつけていった。3ポイントシュート力をつけ、インサイドにペネトレイトしたときの攻撃のバリエーションも増やし、勝負強さも見せてきた。その時々で自分に何が必要なのかを判断し、スキルやフィジカルを磨いてきた。

 グリズリーズのトレーニングキャンプは、彼が今まで経験したなかでも一番大きなチャレンジになる。何しろ、ポイントガードとしてジャ・モラントや、マーカス・スマート、スコティ・ピッペンJrらとマッチアップし、さらにはペイント内に入れば、リーグの最優秀守備選手賞に選出経験のあるジャレン・ジャクソンJrのような選手がブロックに跳んでくるのだ。そのフィジカルやスピードに慣れ、どうやって自分の力を発揮するのか。長くても3週間の戦いのなかでヒントを見つける必要がある。

 これまで高いレベルになればなるほど成長してきた河村にとって、壁にぶち当たることもあるかもしれない。それでも、その壁の向こうには、さらなる飛躍が待っているはずだ。

【グリズリーズのロスター契約状況】

 グリズリーズは8月末に契約選手をひとりカットし、さらにトレーニングキャンプを前に、ベテランポイントガードのデリック・ローズが引退した。これによって本契約選手は13人となり、ロスター枠に2人の空きができた。労使協定により、ロスターの最低人数は14人と規定されており、開幕から2週間以内には14人目と契約する必要がある。アメリカ時間9月30日(日本時間10月1日)のメディアデーで、ザック・クレイマンGMは、「約束はできないが、現実的に考えて、開幕までに14人目を埋めることになる」と言っており、キャンプとプレシーズンを見たうえで、何らかの動きがある見通しだ。

 河村のポジションであるポイントガードの戦力を見ると、スターティング・ポイントガードはジャ・モラントで、健康である限り、彼がポイントガードの時間の大半をプレーするのは確実だ。2番手のポイントガードは、現戦力のままならツーウェイ契約のスコティ・ピッペンJr.が務めることが有力視されている。あるいは、開幕頃までにフリーエージェントで残っていたり、他チームの開幕チームに残れずにカットされた中堅~ベテランのポイントガードと契約する可能性もある。

 エグジビット10契約の河村にとって、開幕前の最高のシナリオは契約がツーウェイ契約に切り替えられることなのだが、現時点でツーウェイ契約は3枠とも埋まっている。同じポジションのピッペンJr.がツーウェイ契約から本契約にアップグレードされた場合は、河村のツーウェイ契約の道が開けるかもしれない。

【Gリーグ経由でNBA入りを狙うのが現実的か?】

 河村がグリズリーズと交わしたエグジビット10契約は、基本的にはトレーニングキャンプに参加し、傘下のGリーグチーム、ハッスルでプレーすることを見据えた契約だ。グリズリーズのロスター状況で書いたように、ピッペンJrの契約が本契約に切り替えられたときに空いた枠でツーウェイ契約する可能性もないわけではないが、現実的に考えると開幕前にカットされ、ハッスルで11月8日から始まるGリーグのシーズンを迎える可能性が高い。

 Gリーグ行きとなった場合のいいところは、NBAのコールアップがグリズリーズに限られないということ。実力が認められ、ポイントガードが必要な状況があれば、NBA30チームのどこからのオファーでも受けることができる。コールアップされたときはそのチームが戦力を必要としている場合なので、たとえ短期間であっても、試合に出られる可能性は十分にある。

 少し気が早いかもしれないが、来年夏は大きな国際大会があるわけではなく、NBAサマーリーグに出場するチャンスでもある。すべての経験から成長し、道を開く。NBAという高い頂に挑むための河村の挑戦は、今、ようやく始まったところだ。

著者プロフィール

  • 宮地陽子

    宮地陽子 (みやじ・ようこ)

    スポーツライター。東京都出身。アメリカを拠点にNBA取材歴30年余。アメリカで活動する日本人選手やバスケットボール国際大会も取材。著書に『The Man〜 マイケル・ジョーダン・ストーリー完結編』(日本文化出版)、編書に田臥勇太著『Never Too Late 今からでも遅くない』(日本文化出版)、2023年1月発売の共著に『スラムダンク奨学生インタビュー その先の世界へ』(集英社)。

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