佐藤琢磨「すべて戦略通り」のすごさ。インディ500で2度目の優勝 (3ページ目)

  • 天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano
  • photo by USA TODAY Sports/Reuters/AFLO

 いったんレースを止め、安全が確保されてから再開すべきという声は当然あった。しかし、アクシデント直前に琢磨はディクソンとの差を1秒以上に広げており、琢磨の勝利はほぼ確定していた。リスタートから2周でゴール、ということとされたら、トップだった琢磨が逆に大きな不利を背負い込むことになる。イエローのままのゴールは正しい判断だった。

 最後まで戦い、逆転を狙ったディクソンは、「琢磨は自分より1周早くピットしており、燃費では自分が優位だと思っていたが、彼は燃費セーブをしているとは思えないスピードで走り続けていた」と、当惑気味に語る。「イエローが出るのを期待してのギャンブルだったのでは?」とまで考えたようだ。

 しかし、実際には琢磨のタンクに燃料は十分残っていた。「ゴールと同時にガス欠だったかもしれないけれど、最後の3周をフルパワーのミクスチャーで走れるだけの量は確保していました」と、ウィナーは自信満々の表情で語った。

「序盤はトップ5に順位を保ち、燃費を稼ぎ、マシンを労るように走り、ピットストップでセッティングを調整、コンディションを把握し、その変化を予測し、ライバルの実力評価もしながら最後の2スティントを迎える。勝負はそこから。本当の勝負どころは最後の数十周」というのが琢磨の戦い方だった。

 今年の彼はまさにその通りの戦いを繰り広げ、勝利を手に入れた。いま、インディアナポリスの歴史あるオーバルでレースをさせたら、最も強いのが琢磨だろう。我々はそれを思い知らされた。

 来年、琢磨はインディ500優勝候補の筆頭に挙げられるに違いない。そして実際、連覇してインディでの3勝目を達成する可能性は十分にある。

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