MotoGPファクトリーチームが揉めている。
火種になったライダーの未来は

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 この状況は、ザルコのMotoGPデビューシーズンとはまるで正反対だ。

 2017年にヤマハで最高峰クラスデビューを飾った当時の彼は、型落ちのバイクで並み居るトップライダーたちに敢然と立ち向かう、いわば『ダビデとゴリアテ』の逸話そのままの選手だった。そして、ファクトリーマシンとの性能差など気に病む様子もないその態度が、KTMの目にとまったのだ。

「自分たちのパッケージを気にもしていませんでしたね」とベイラーは振り返る。「ファクトリーチームとの差にけっして文句を言わず、うらやむ様子もなかった。目の前にあるバイクにポンと乗って、速さを発揮していました。我々は彼のそんな姿を見て、『これこそ我々の求めている選手だ』と思ったのです」。

 それから21カ月が経ち、いまやザルコの未来はまるで先行き不透明だ。いったい何が間違っていたのだろう。

 まず、最初に指摘できるのは、流れるようなライン取りでコーナースピードを活かす彼のライディングスタイルを今のバイクに合わせ込めなかった、ということだ。コーナーの進入でフロントの安心感を十分に得られず、常にフィーリング不足に悩まされていた。

 さらに、チームメイトのポル・エスパルガロが「猛牛」と呼ぶマシン特性は、KTMへ移籍する前にザルコが乗り慣れたバイクとは大きく異なり、ライダーにかなりのフィジカルな対応を要求する。「昨年の最終戦終了後に行なったバレンシアテストで初めて乗った時から、いいフィーリングを掴めずにいました」と、チームの重鎮であるマイク・ライトナーも認めている。そしてその後も、改善の兆しはほとんど見られなかった。

 ザルコからのフィードバックは、まだ表彰台までかなりの距離があるKTMが求めていたものではなかったのだ。ある上級エンジニアから直接聞いた話では、ザルコのニューパーツに対するコメントはいつも、フロントのフィーリングがよくなるかどうかにのみ向けられていたという。

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