最終戦で奇跡の大逆転。山本尚貴、5年ぶりの王座奪還に大粒の涙 (2ページ目)

  • 吉田知弘●取材・文 text by Yoshita Tomohiro
  • 吉田成信●撮影 photo by Yoshida Shigenobu

 実は今週末、山本は勝負どころで最高のパフォーマンスを発揮できるように、ある種の「ゾーン」を自分の空間に作ることを徹底していた。

「本当はファンと触れ合って、ヘルメットをかぶったら(集中する)スイッチを入れられるのが理想です。でも......やっぱり結果が伴わないと、応援してくれる人は増えないし、味方も増えません。今回は自分にハッパをかけている部分も少なからずありました」

 山本は意識的に、無愛想な振る舞いをして自身を奮い立たせることがある。ジェンソン・バトンとともに勝利したスーパーGT第6戦・SUGOでも、チームの雰囲気を壊さないために最後まで感情を表に出すことをしなかった。ただ今回は、さらに磨きがかかっていた。

「先日、スタンレーレディスゴルフトーナメントを観に行く機会があって、プロゴルファーの『自分の空間の作り方』にヒントを見つけました。ゴルフはメンタルスポーツですし、集中力が削がれてしまうと結果が出ない。どれだけ集中して自分の100%を出せるか、それが大事だとあらためて感じました」

 自分の空間にゾーンを作ろうと徹底していたのは、このような学びもあったからだ。

 そして日曜日。スーパーフォーミュラでは決勝レースの前に、ファンをグリッド内に入れる「グリッドウォーク」が開催される。だが、山本はサングラスをかけて周囲とのコンタクトを遮断。ここでも自分の空間に「ゾーン」を作り、ポールポジションの周辺は異様な空気に包まれていた。

 そしてスタートが切られると、山本は抜群のタイミングでトップを死守。ソフトタイヤを履いた前半は好ペースをキープし、後続を引き離しにかかった。これに対し、ミディアムタイヤのキャシディは一時5番手に下がったものの、安定したペースで山本との差を徐々に縮め始める。

 中盤に入ると、山本はブレーキ温度が安定しない問題に悩まされ、ペースをコントロールしながらの走行となった。それに乗じたキャシディは2番手まで浮上し、山本に急接近。その差は一気に縮まり、残り5周で両者の差は2秒となった。

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