ハッキネンvs.シューマッハ。鈴鹿で火花、もうひとつのライバル対決 (2ページ目)

  • 吉田知弘●取材・文 text by Yoshita Tomohiro
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 そして、決勝日のレース前。1950年から始まったF1世界選手権史上、例をみない光景をファンは目にする。レースのスタートに向けて緊張感が高まるスターティンググリッド上にて、ハッキネンはシューマッハのもとに向かい、フェアプレーを誓う握手を交わしたのだ。

 この鈴鹿で、世界王者が決まる――。そんな大事なレースを正々堂々と戦いたいという、ふたりの思いが通じ合った瞬間、14万人を超える観衆は歓声をあげ、サーキットのボルテージは最高潮に達した。

 しかし、いざレースが始まると、予想外の出来事が待ち受けていた。後続の1台がエンストを起こしてフォーメーションラップがやり直しとなると、ふたたびグリッドについたシューマッハのマシンに異変が生じ、スタートシグナルが点灯する前にエンストしてしまったのだ。

 スタート遅延の原因を作ったマシンは、グリッドの最後尾に回されることになる。シューマッハのチャンピオン獲得の可能性は、この瞬間に潰(つい)えたかと思われた。

 それでも、シューマッハはあきらめていなかった。スタート直後から猛烈な加速で前方のマシンを次々と抜き、1周目で10台以上をパスしたのである。レース中盤には3番手まで浮上し、トップを走るハッキネンを猛追した。

 対するハッキネンも、ライバルが追い上げてきていることは理解しており、ペースを落とすことなくトップをキープ。0.001秒を削り合うふたりの攻めた走りに、ファンは釘付けとなった。

 ところが32周目、シューマッハの右リアタイヤが突如バースト。その影響でマシンにもダメージが及び、そのままリタイアとなってしまった。そしてハッキネンはその後も首位を守り抜き、自身初のワールドチャンピオンを決めた。

 レース後のパルクフェルメには、王座争いに敗れたシューマッハの姿があった。

 最後までフェアプレーを貫き通し、互いが限界まで出し尽くした。その結果、勝者となったライバルを讃えるため、シューマッハはサーキットを離れずにハッキネンが帰ってくるのを待っていたのだ。

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