ホンダのエース山本尚貴、快進撃の裏に「ガスリーに完敗」の苦い経験 (2ページ目)

  • 吉田知弘●取材・文 text by Yoshita Tomohiro
  • 吉田成信●撮影 photo by Yoshida Shigenobu

「ピエール(・ガスリー)に対して負けることは絶対に許されないと思っていたし、自分が結果を出し続けないといけないと思っていました。彼に負けるわけにはいかないという思いが強すぎて、ちょっと自分でも見失っている部分がありました。走り方もそうだし、今思えば余裕がなかったなと思います」

 精神的に相当追い詰められたと、山本は当時を振り返る。ただ同時に、ガスリーの走りからもいろいろ学んだともいう。

「精神的にいいものではなかったし、つらかったのは確かです。その環境のなかで自分をコントロールしていかなきゃいけないのですが、修正する間もなくシーズンが終わってしまった。ただ、自分にはない走らせ方や考え方も、ガスリーから習得しました」

 オフシーズンの間、山本は2017シーズンを振り返り、どうすればいいかを深く考え、そして今シーズンは考え方を変えてレースに臨んでいるという。

 たしかに今シーズン、山本に何度か取材していると、そこでの会話に「柔軟」や「吸収」という言葉がよく出てくるようになった。たとえば、スーパーGTで元F1王者のバトンとコンビを組むことになったとき、山本は「柔軟に彼のいい部分を吸収していきたい」と語っている。

 これまでは「ホンダのエース」として、山本はホンダ勢のなかで常に一番の結果を残すことに強いこだわりを持っていた。だが、昨年「負け」を経験したことによって、今年は予選で順位がよくないときでも、落ち着いて次の手を考えている様子が見受けられる。

 今回のレースは、ピットストップのタイミングが明暗を分ける展開となった。山本はベストとも言えるタイミングでピットインすることに成功し、それが優勝へとつながったのは間違いないだろう。

 レースというものは、実力やチームの総合力はもちろんだが、最後はこうした「運」で決まることも多々ある。山本のレースを振り返っても、いつも運に恵まれたケースばかりではない。昨年のスーパーフォーミュラ第6戦・SUGOでは、セーフティカー導入を見越した戦略が裏目に出てしまい、レース終盤にガス欠でストップ。昨年のスーパーGTでもセーフティカー導入で流れが変わり、トップ争いから脱落する場面がいくつもあった。

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