エアレース開幕戦は惨敗でも、室屋義秀が「次は期待して」と言えるわけ (2ページ目)

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki
  • photo by red bull

 チームスタッフと共に自らも工具を持ち、両手を真っ黒に汚して機体と向き合っていた室屋が、ひととき手を休め、引きつった笑いを浮かべて口を開く。

「今、(冷却システムの)セッティングを昨年の仕様に戻しているけど、(シーズンオフに)エンジンのシリンダーとピストンを全部替えているので、そっちが原因かもしれない。だとしたら、ここではもうどうしようもない。これを戻して調子がよくなればいいけど......、どうかな、これ......ちょっときついなって感じ。明日の朝テストフライトしてダメだったら、どうにもならない」

 話す言葉に力がない。だが、明日もこの状態で戦うしかないと、すでに腹をくくっているのだろう。表情は意外なほどさばけている。現状をひと通り話し終えると、室屋はすぐに作業に戻っていった。

 その後、パイロットである室屋は先にホテルへ引き上げたものの、チームスタッフの作業はほとんど徹夜に及んだという。

 そして迎えたレースデイ。室屋はラウンド・オブ・14で、前日までのもたつきが嘘のようなスーパーフライトを披露する。

 アブダビの強い日差しを浴び、キラキラと輝く機体は息を吹き返し、滑るように前へ前へと進んでいく。ラップタイムをいちいち確認しなくても、スピードが増していることは明らかだった。

 果たして、タイムは52秒126。前日の予選トップに肩を並べる好記録で、室屋はフィニッシュゲートに飛び込んだ。

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