トヨタの悲願達成ならず。中嶋一貴が語ったル・マン24時間のラスト3分

  • 川喜田研●取材・文 text by Kawakita Ken 写真提供:トヨタ自動車

「ル・マンには魔物が棲んでいる......」

 モータースポーツに関わる仕事に就いてから25年余り。「伝統の一戦」を語る人たちの口からこの言葉を何度も耳にし、実際、そう感じたこともあった。しかし、今年のル・マンほど、「魔物」の存在を思い知らされたレースはない。

終盤、トップを快走していたトヨタだったが......終盤、トップを快走していたトヨタだったが......「魔物」は静かに息をひそめて「その時」を待っていた。ラスト3分、後続のポルシェに1分30秒近い差をつけてトップを快走していたトヨタ5号車を突然の異変が襲う。

「ノーパワー、ノーパワー」とコックピットから無線で呼びかける中嶋一貴の声にトヨタのピットは凍りついた。急激にスローダウンし、ピットストレート正面で停止するトヨタTS050HYBRID。あの瞬間、ル・マンに棲む「魔物」が、歓喜の時を待っていた中嶋一貴と、トヨタGAZOOレーシングチームのすべてのスタッフの運命を一気に飲み込み、「暗転」させてしまった。

 その直前、つまり、23時間57分ごろまでトヨタは「完璧」と言ってもいいほどの素晴らしい戦いぶりを見せていた。スタート直前に降り出した豪雨のなか、セーフティカーの先導で始まった第84回ル・マン24時間レース。

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