ヤマハで3度王者に輝くロレンソが「ドゥカティ移籍」を決めた心境

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira  竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 リザルトの数字だけを見るならば、第4戦・スペインGPは鳥肌の立つようなバトルで観客を興奮の坩堝(るつぼ)にたたき込む内容のレースでは決してなかった。

マルク・マルケス(右)は日本の国旗を持って表彰台に上がったマルク・マルケス(右)は日本の国旗を持って表彰台に上がった 優勝を飾ったバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)は、2位のホルヘ・ロレンソ(同)に対して着々とタイム差を開き、2秒から3秒のマージンを最後までコントロールして圧勝の結果に終わった。2位のロレンソから3位のマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)もまた、同様の展開で4.7秒差。トップスリーの勝負は、ロレンソが序盤2周目に勝負を仕掛けて一瞬だけロッシの前に出たものの、即座にロッシがコーナー立ち上がりで奪い返す――というラインの交錯が一度あっただけだ。その意味では、二輪ロードレースの醍醐味である激しい駆け引きのない、退屈なレースだったのかもしれない。

 だが、その面白味のない展開を作り上げるに至った驚嘆のパフォーマンスと、その高水準のレース内容を最後まで維持し続けた緊張感という水面下の要素も考慮してレース全体を眺めたとき、ヘレス・サーキットで繰り広げられた日曜日の戦いは、むしろ息を呑むほどのすごみを感じさせる27周だった、というべきだろう。

 今回でキャリア113勝を達成したロッシの過去のレースを思い返してみても、ここまで圧倒的に最初から最後まで完璧に制圧した展開は、あまり記憶がない。どの排気量の時代でも、ロッシは長いレース周回のどこかで必ず激しいバトルを繰り広げ、劇的な勝ち方をしてきたという印象が強い。

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