【F1】可夢偉の本心。「もしかしたらこれで最後なんかなぁ」 (4ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 決して恵まれた環境とは言えなかったが、可夢偉はこの1年間ずっと自分が牽引し成長させてきたこのチームとマシンを背負い、アブダビGPに臨んだ。

 そして、これがF1での最後のレースになったとしても悔いがないよう、可夢偉はやれる限りのことをやった。予選最後のアタックで右の前後ホイールをガードレールにこすりつけながら走ったことにも、可夢偉の思いが強く表れていた。

「ギリギリやけどいってみようと思っていったら、案の定ギリギリやったっていうね(苦笑)。上とのタイム差が結構あったから、かなりチャレンジせなあかんっていうのは思ってて。自分なりに守りに入らずに攻めていこうって思ったんです」

 守りに入らず、路面コンディションの変化を先読みしてマシンにセットアップ変更を施す賭けにも出た。結果的にそれが当たらず、リアタイヤがズルズルになってガードレールに接触してしまったわけだが、可夢偉は満足げな表情だった。

 悔いのないレースを。その思いの通りに戦えていたからだ。


 11月22日、日曜日の午後5時、最終コーナーの向こう側が夕焼けに染まり始める中で、アブダビGPの決勝はスタートの時を迎えた。

スターティンググリッドでチームスタッフと記念撮影をする可夢偉スターティンググリッドでチームスタッフと記念撮影をする可夢偉 スターティンググリッドにマシンを停めた可夢偉がコクピットから降りヘルメットを脱ぐと、誰からともなくスタッフがマシンの周りに集まって可夢偉をその輪に呼び入れ、記念撮影が行なわれた。これが最後のレースになるかもしれない――。その思いはチームのスタッフたちも同じだった。

 日が傾くとそれほど暑くはない夕方のアブダビだが、可夢偉はぎゅっとタオルで顔を覆ってしばらく動かなかった。ヘルメットを被るその前に汗を拭っていたのか、それとも……。

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