【MotoGP】猛スピードで成長中。新星マルク・マルケスの「驚異の学習能力」 (2ページ目)

  • 西村章●取材・文 text by Nishimura Akira  竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 マルケスの超弩級のロケットスタートはMoto2時代から定評がある。だが、初体験のMotoGPウェットレースでは、さすがに少々、勝手が違った、ということか。

 レース序盤にミスを繰り返して単独8番手に沈んでいたマルケスは、中盤周回以降、それらのミスを走りながら確実に咀嚼(そしゃく)してゆき、徐々に安定したタイムを記録するようになる。前との差も少しずつ詰まり始め、ひとつ、またひとつと順位をあげてゆく。22周目には4番手まで浮上。この段階ですでに、マルケスは前を走るペドロサ、クラッチロー、ドヴィツィオーゾの3選手よりも速いラップタイムを記録している。

雨のル・マンで3位表彰台を獲得したマルク・マルケス(写真・先頭)雨のル・マンで3位表彰台を獲得したマルク・マルケス(写真・先頭) 後ろからマルケスが近づいていることをサインボードで知らされたクラッチローは「早くアンドレア(・ドヴィツィオーゾ)を追い抜いて前に出ておかないと、アンドレアもろともマルケスにやられてしまう」と考えていたという。

 ドヴィツィオーゾは終盤に順位を落としてマルケスの餌食になり、マルケスはさらにクラッチローに照準を据えた。両選手の間には3秒以上の差が開いていたが、やがて2.2秒、1.4秒と、どんどんその距離が詰まってゆく。最後は、周回数が尽きたこともあってマルケスは追撃をあきらめたようだが、もし、あと2周ほど残っていれば、クラッチローは確実に捉えられていただろう。

 それにしても、驚くべきクイック・ラーナー(習熟スピードの速さ)だ。マルケスの走りを見ていて舌を巻くのは、決勝レースの最中にオーバーランを繰り返しながら走り方をどんどん学んでゆき、終盤に向けてラップタイムをどんどん削ってゆくところだ。

 まるで、AI(人工知能)がさまざまな条件下で操作を重ねて、あっという間に最適解を導き出していくような、そんな趣(おもむき)もある。おかしなたとえだが、この順応性の高さと学習能力には「人間電子制御」といった言葉も脳裡を掠(かす)める。

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