【F1】 「シート獲得の可能性はまだある」。未来の「夢」につなげる可夢偉の決断 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 今年の鈴鹿でのあの感動的な表彰台獲得の直後、韓国GPの時点では、可夢偉は来季に向けて楽観的だった。スポンサーなど持ち込まずとも、自身の能力を買ってくれるチームがいる。そう確信を持っていた。

 だが状況は刻々と変化する。可夢偉自身の心境も変化する。

 可夢偉が欲しているのは、良いレースをすることができる環境だ。だがそれを手に入れるためには、資金的な後押しが必要だという現実が目の前に立ち塞がった。ザウバーに空きシートがないことは、その時点ですでに分かっていたのだ。

 悩み抜いた結果、信念を曲げてでもコンペティティブな(競争力のある)マシンでレースがしたい、という結論に可夢偉は達した。

「突然、10億円集めてようやく交渉ができるっていう状況って、苦境と言ってもいいですよね。しかも1年じゃなくて、2、3カ月で集めなきゃいけないんです。もっと言えば、交渉のためには2、3週間の勝負です。どうしたらええんかな......」

 インドGPの時点で、可夢偉はそう言った。

 そんな可夢偉の状況を知って、支援を申し出るスポンサーも現れ始めた。だが、それだけで可夢偉が望むシートが得られるわけではない。資金はまだまだ必要だった。

 そんな中、ファンの間では個人レベルで寄付を募って可夢偉のシート獲得を応援したいという声が多くあがり始めた。そして立ち上がったのが、『KAMUI SUPPORT』だった。

「企業にもスポンサーの可能性を当たっている中で、あまりにもいろんな人からそういうのをやってくれって問い合わせがあったのと、尼崎(可夢偉の出身地)の市役所に電話をしてくる人も多くて、市役所の電話回線がパンクしたっていうこともあったりして(苦笑)。もちろん早くやりたかったんですけど、税務とかいろんな問題があったので、なかなかやろうと思ってすぐにできるものでもなくて、いろんなことを理解したうえで準備をしてやっとできたという感じです」

 ファンからの支援受け入れと、それに対する責任と、そしていずれは果たさねばならない恩返し。税務処理面についての確認作業も簡単ではなかった。そしてなにより、このファンにすがるような行為、そこまでしてF1に残留すべきなのかという葛藤もあった。

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