全米プロ。松山英樹は「持てる者の悩み」を克服できるか (3ページ目)

  • 三田村昌鳳●文 text by Mitamura Shoho
  • photo by Getty Images

 何はともあれ、松山にはメジャーを勝つだけの力がある。精神的にも、肉体的にも、それだけの力を身につけてきている。そして、勝つための準備においても、その密度が一段と濃くなっている。

 まして、松山はメジャーの戦い方を知っている。初日、2日目は、予選突破を第一に考えて、丁寧に、丁寧に攻めて、きちんと結果を出せる。一転、3日目、4日目には、勝負を仕掛けていける。言い換えれば、厳しいコース設定における「リスクと報酬(危険を覚悟して、確かな技術で挑戦すればスコア上の報酬が得られること)」にも、しっかりとチャレンジできる。そこでは、ボギーやダブルボギーを叩く可能性もあるが、松山はリスクを冒して攻めていける技術も、度胸もある。まさにメジャーの、4日間のゲームというものを的確に演出できる選手なのだ。

 とすれば、最終的に勝負を決めるのは、パッティングとなる。メモリアルトーナメント以降、松山のパッティングの調子は今ひとつだったが、パットさえ決まり出せば、一気にチャンスは見えてくるはずだ。

 とりわけ、全米プロというのはシーズン終盤に行なわれるため、トッププレイヤーのピークが下降線にあったりして、最後に調子を上げてきた意外な選手が台頭することが過去にもたくさんあった。そのため、「シンデレラボーイを生み出すメジャー」とも言われている。松山が今回、“シンデレラボーイ”になっても何ら不思議ではない。

 そうは言っても、最後に付け加えておきたいことがある。松山が“ウイナーズ・サークル”の一員となって、まだ数カ月しか経っていないということだ。ワンステップ上がれば、それまでとは違った悩みを抱え、精神面の置きどころも一層難しくなってくる。そんな状況にある松山に、性急に結果を求めるのは酷なこと。松山自身、目の前の結果にこだわって、焦る必要はないと思っている。

 この、もがき苦しんだ経験は、来年、そして再来年に必ずや生かされるはずである。今は優勝という結果よりも、日本人選手で初めてメジャーで勝ち負けできる領域へと足を踏み入れようとしている、松山英樹の挑戦をしっかりと見届けたい。

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