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ワールドカップでブラジルが強く見えない..."らしさ"をやめ、ひとりのエースに賭ける (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Kenji Nishibe

【クラッキを複数揃えることが困難に】

 ただ、ブラジルが「ブラジル」でなくなったのはまた別の理由からだ。

 指示不要の根拠だった「どうプレーすべきか」という基盤がなくなってしまった。最後に優勝した2002年日韓W杯には、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョの3人がいた。クラッキ(名手)×3はまだ成立可能だった。しかし2006年ドイツW杯はロナウド、ロナウジーニョ、カカーで成立していない。4年間で、それでは勝てない流れに変わっていた。

 それ以降は、クラッキを複数揃えること自体が困難になった。「どうプレーすべきか」を身につけていたストリートサッカーは消滅し、クラブは欧州への選手輸出に注力。代表クラスの大半が若くして欧州クラブへ売却され、欧州化した選手を集めた代表チームも欧州化した。

 かつての「ブラジル」を再現しようにも、もはやそのためのタレントがいない。だから新たな基準を「再構築」しなければならなくなった。

 新たな指針は、言わばかつてのイタリア方式である。守備を固め、ヴィニシウスの個人技によるカウンターを狙う。ヴィニシウスを疲弊させてはいけないので守備負担は軽くしている。典型的な「1+9」の構造だ。

 4-4-2で守備ブロックを作る際、ヴィニシウスはイゴール・チアゴと最前列の「2」に入る。本来は左サイドハーフのはずなのだが、モロッコの攻撃的右SBアクラフ・ハキミを追って自陣深くまで下がってしまうと、ヴィニシウスによるカウンターができない。攻め残りさせる必要があり、左サイドの守備はルーカス・パケタやラフィーニャが肩代わりしていた。

 途中からはヴィニシウスを左サイドに残した。ハキミを放置するリスクと、ハキミのいないサイドにヴィニシウスを攻め残りさせるメリットを天秤にかけたのだろう。こういうケースも想定してなのかSBはほぼ守備専業だ。カフーとロベルト・カルロス、ダニエウ・アウベスとマルセロのような伝統の攻撃的SBを起用していない。

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