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オリバー・カーンに「神」が宿った2001年CL決勝 ゴール前のすさまじい圧力に相手は皆おじけづいた (2ページ目)

  • 粕谷秀樹●取材・文 text by Kasuya Hideki

【ワールドカップ史上に残る名シーン】

 ただ、ほかの名手とは一線を画し、常に好戦的だった。

 1FCケルンで奥寺康彦と同僚だったシューマッハーも熱い男だったが、カーンに比べればおとなしい。基本的にGKは冷静沈着。同僚がいさかいを起こした場合は止める──との不文律を破るかのように、自ら進んでトラブルの輪の中に突進していく。

 いや、決してケンカ自慢ではない。勝利に対する強い思いが、カーンのハートに火をつけただけだ。

 たとえば、2002年の日韓ワールドカップである。グループステージ第2戦のアイルランド戦で、ドイツは不注意なミスから後半アディショナルタイムに失点。それでも試合後のロッカールームは緩んでいたという。

「テメーら、ポイントを失ったというのに、その態度はなんだっ!」

 カーンの喝(かつ)は効いた。

「決勝トーナメントに進出できれば御の字。ベスト8なら上出来」と言われていたドイツにポジティブな危機感と緊張感がみなぎり、決勝にまで駒を進めた。ブラジルには敗れたものの、カーンのひと言が屈辱的な下馬評を覆したのである。

 ブラジル戦終了後、カーンは悔しさを押し殺すようにして、ポストにもたれかかっていた。決勝進出は望外のフィナーレとはいえ、ここまで来たらやはり勝ちたい。優勝と準優勝では雲泥万里(うんでいばんり)ある。

 その時、ブラジルのキャプテン、カフーがカーンに近づいていった。二言三言(ふたことみこと)交わしたあと、握手をし、健闘を称え合う。ワールドカップ史上に残る名シーンとして、多くの人々の記憶に刻まれている。

 カーンにはもうひとつ、苦い記憶がある。1998-99シーズンのチャンピオンズリーグ決勝だ。

彼が所属したバイエルンは、後半アディショナルタイムに入るまで1-0とリードしながら、マンチェスター・ユナイテッドに大逆転を許した。世にも有名な「カンプ・ノウの奇跡」である。

 テディ・シェリンガムの同点ゴールは90分35秒、オーレ・グンナー・スールシャールの逆転ゴールは92分17秒と記録されている。わずか1分42秒で、カーンとバイエルンは天国から地獄に転落した。

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