バルセロナはチャンピオンズリーグ&ラ・リーガの頂点をつかむか 「背水の陣」を支えるCBコンビの動きを分析 (2ページ目)
【原則の逆を行くクバルシ】
ディフェンスラインはプレッシャーがONなら上げる、OFFなら下げるが原則だ。しかし、クバルシはOFFの場合でもポジションを上げてオフサイドをとっている。原則を外して個人の判断でオフサイドトラップをかけているのだ。
クバルシがそれをやる条件は状況を完全に把握していること。ボール、相手FW、味方DF。この3つの状態を見極めていないといけない。
まず、オフサイドにする相手FWが自分の前にいること。CB間に入った相手はボールから遠いほうのCBがウォッチする。自分の背後にいるFWは見えないので対象外で、オフサイドトラップのターゲットにもできない。
次に味方のラインが揃っているのを確認できること。自分はオフサイドにかけたつもりでも、他の選手が後方にいればオフサイドにならない可能性があるからだ。
そしてボールホルダーの状態。裏に蹴ってくると予測できること。蹴るとわかりきっていてタイミングも予測できれば、プレッシャーがOFFであっても相手と味方を見ていればオフサイドにすることはできるわけだ。
ボールホルダーへのプレッシャーがOFFなのだからラインの動きは後退している。そして自分の前にいる相手FWが裏へ走ろうとしている。原則からすると、DFは裏をとられないだけの距離をとっておくべきである。しかし、バルセロナの場合は競走に確実に勝てるほど距離の余裕をとっていない。CBのスピードに自信があるからだと思うが、例えばレアル・マドリードのキリアン・エムバペと競走して勝てるDFはほとんどいないだろう。
しかし、レアル・マドリードと対戦してエムバペと対峙したクバルシは後退局面でもあまり距離の余裕はとっていなかった。その代わり、ことごとくオフサイドに仕留めた。
エムバペは単純に直線的な動きで裏へ出ようとはしていなかった。弧を描くように、少しだけ自陣方向へ下がりながら飛び出すタイミングを調整している。これは直線的に走ってオフサイドにならないため、パスを出す味方とのタイミングを調整するためである。
2002年日韓W杯で日本代表の指揮を執ったフィリップ・トルシエ監督は、ラインコントロールを当時のDF陣に叩きこむと同時に、攻撃陣には膨らむ動きでオフサイドを回避するよう指導していて「ウェーブ」と呼んでいた。エムバペが行なったのはこのウェーブだ。
ところが、エムバペがウェーブをすると、クバルシも同じように弧を描くような動き方で対応した。そして最終的にはエムバペが裏へスプリントした瞬間にオフサイドを取れると判断し、体を斜めに傾けたまま後退を減速してオフサイドをとっていた。
クバルシはスピードがあり守備範囲が広いという点で、ハイラインを任せるのにうってつけのCBだ。しかし、エムバペと速さで勝負するのはさすがに分が悪い。だが、オフサイドにしてしまえば競走するまでもない。クバルシのオフサイドトラップはリスキーではあるが、高速FWの最大の武器を無効化した点で意義は大きかった。
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