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【プレーバック2024】ゴールを決めれば勝つ 勝負の命運を司る久保建英に与えられた「タリスマン」の称号 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【「チームを自分が引っ張る」】

 「Quiero tirar del carro

 久保は自らスペインメディアに対し、そう宣言している。「荷車を引きたい」が直訳だが、それはスペインサッカー用語では「チームを自分が引っ張る」というリーダーとしての非常に強い自己主張である。実力のないものは、軽々しく口にできない。たとえ実力があっても、少しチームがうまくいかないだけで批判の的にされるため、言葉にするのを避ける傾向がある。

 久保は一貫して、試練から逃げない姿勢を示してきた。その姿勢が、正念場でのゴールを可能にしているのかもしれない。興味深いのは、彼に"固め取り"がない点だろう。大差がついた段階でのシュートの成功率も、むしろ落ちる。勝利に関わる正念場で、真価を発揮している。

 「タケがゴールした試合は負けない」

 そのジンクスは馬鹿にできない。偶然かもしれないが、重なると必然になる。チームメイトも、ファン・サポーターも、今や久保のゴールに沸き立つだけに、単なる1点ではない。自軍の勝利を確信し、自信に満ちたプレーが生まれるのだ。

 「タケ(久保)はコンプリートな選手だよ。スペースを占拠し、突破し、仕上げまでやってのける」

 ミケル・アランブルはそう説明している。アランブルはラ・レアル一筋のワンクラブマンで、世界最高のMFシャビ・アロンソと中盤を組み、2002−03シーズンにはラ・リーガ準優勝を果たし、2003−04シーズンにはチャンピオンズリーグでラ・レアルをベスト16にけん引したレジェンドだ。

 「タケはスピードを操れる。それは強力な武器だろう。スピードのなかで見せられる技術が高い。その領域に入れる選手は少なくて、敵は当然ながら苦しむだろう。ボールを受け、崩しのドリブルに入り、コンビネーションにつなげ、ゴールに迫る。その作業におけるクオリティがすばらしい。そしてラ・レアルでプレーを重ねることによって、自信が滲み出てきた。今のラ・リーガでは一番、試合を決められる選手のひとりだろう。試合の均衡を崩す。その戦いにおける彼は無敵だ」

 久保がゴールできるのも、勝利に結びつけらえるのも、偶然ではないということか。

 「Talisman

 それは、限られた者にだけ与えられる称号である。勝利の福音とも言えるだろう。そして、神話の先には栄光がある。

◆「勝負に祈る時 アスリートたちの明暗」(1)因果応報の風景 サッカー日本代表、カタールの奇跡からのアジア杯惨敗はなぜ起きた?

◆「勝負に祈る時 アスリートたちの明暗」(2)満身創痍の早田ひなに2つのメダルをもたらした「常在戦場」の精神


著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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