突如、鹿島の監督を解任されたランコ・ポポヴィッチ「温かく迎えてくれたチームがそれを望むなら...」
帰国前の鹿島アントラーズ前監督ランコ・ポポヴィッチ photo by Kimura Yukihikoこの記事に関連する写真を見る
11月11日、ランコ・ポポヴィッチは羽田空港にいた。鹿島の監督を電撃解任され、妻と共に帰国の途につくためである。せめてサポーターたちには、あいさつがしたかったというポポヴィッチの最後の言葉をお伝えする。
解任を告げられたのは、10月5日、4対0で勝利した新潟戦の直後だった。9試合ぶりのクリーンシートの喜びに浸っていたロッカールームで、吉岡宗重フットボールダイレクターにこう告げられた。「明日、社長に呼ばれているので出向いて欲しい」残り6試合、1試合少ない首位広島とは勝ち点12差でリーグ4位の位置につけていた。
「ああいう快勝だったのでサポーターも喜んでいたし、あまりに突然のことで驚きはした。私は決して優勝をあきらめていませんでした。『1%でも可能性がある限り、戦い続けて勝利をもぎ取る』。その執念を鹿島の歴史から学んでいたからこそ、最後までJリーグ制覇に向けて全力を尽くすつもりでした」
新潟戦ではチーム2位の9得点をあげていた濃野公人をケガで欠きながらも、守備をコンパクトにした3バックへの布陣変更が奏功。抜擢した樋口雄太もゴールを重ねた。最後まで闘う覚悟で臨み、手ごたえを感じていた中での突然の解任に悔しくないはずがない。その後の流れるような監督人事を見れば、元々が1年で解任ありきの繋ぎだったのかと邪推もしたくなる。しかし、愚痴も恨み言も口にしない。
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著者プロフィール
木村元彦 (きむら・ゆきひこ)
ジャーナリスト。ノンフィクションライター。愛知県出身。アジア、東欧などの民族問題を中心に取材・執筆活動を展開。『オシムの言葉』(集英社)は2005年度ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞し、40万部のベストセラーになった。ほかに『争うは本意ならねど』(集英社)、『徳は孤ならず』(小学館)など著書多数。ランコ・ポポヴィッチの半生を描いた『コソボ 苦闘する親米国家』(集英社インターナショナル)が2023年1月26日に刊行された。