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マンチェスター・シティのリコ・ルイス19歳 日々進化するSBの最先端を行くプレーとは (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【もはやサイドバックですらない】

「偽SB」にはもともとウイングを活かす機能があるので、ウイングの復権とともに「偽SB」も増えていった。

 リバプールはトレント・アレクサンダー=アーノルドを「偽SB」としている。リバプールは右だけ「偽」だが、アーセナルは左。昨季はジンチェンコや冨安健洋が起用されたが、今季は負傷が癒えたユリエン・ティンバーを抜擢した。

 アレクサンダー=アーノルドとティンバーはビルドアップの軸となる点で、「偽SB」の機能性どおりだ。シティグループでもあり、ヤン・マテウス、エウベルのウイングを擁する横浜F・マリノスもこの機能性「偽SB」を採用している。多かれ少なかれ、SBの偽化は今や多くのチームで見られるのだが、リコ・ルイスは少し違っている。

 まず、ビルドアップそのものにはあまり関わらない。中へ入ってボランチ化するのではなく、サイドの高い位置で張る。中へ入るのはそれからで、ウイングへの供給ルートを確保するためではなく、リコ・ルイス自身がウイングなのだ。

 そのため、シティの右ウイングは右のハーフスペースと大外レーンをリコ・ルイスと交換しながらのプレーとなり、いわばリコ・ルイスがふたりいる感じになっている。

 守備では右SBの位置へ戻るのだが、時に最前線まで出ていくリコ・ルイスの帰陣が間に合わないケースも頻発する。その時は後方に残っている3人が右方向へスライドし、例えばマヌエル・アカンジが相手の左ウイングをマークする。

 実はこのほうが、リコ・ルイスを左ウイングにあたらせるより守備は強い。走力のあるリコ・ルイスが戻ってくればダブルマークで対処することもできる。リコ・ルイス以外のDF3人はCBタイプで、左はヨシュコ・グバルディオルあるいはナタン・アケの担当なので守備は堅い。

 近年は強力なウイングを擁するチームが多く、SBもかつての攻撃的な上下動タイプでは分が悪いことも増えた。シティが守備力のあるタイプを3人起用しているのは、そのためでもあるだろう。リコ・ルイスの攻撃力を生かすとともに、わざとディフェンスラインから外しているという見方もできるかもしれない。

 そうなるとリコ・ルイスは「偽SB」というより、もはやSBではないわけで、これをどう呼んでいいかわからない。MFを本業とするパートタイムSBだろうか。つまり、最もSBらしい進化の仕方でもあるわけだ。

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著者プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

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