松井大輔が「稀代のドリブラー」を語り尽くす 三笘薫は「陸上選手のように走る。追いつくのは至難の業」 (3ページ目)

  • 中山 淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi

【ある程度のレベルで真似はできるが...】

 松井氏の分析によれば、いわゆる"三笘流ドリブル"の神髄は、後ろ足でボールを持ち、前進の第一歩から短距離走のようなフォームで走るためにアウトフロントでボールタッチしてボールを持ち出す。三笘のドリブルテクニックに隠された最大のポイントが、そこに潜んでいるという。

 逆に言えば、それさえ実践すれば、誰もが"三笘流ドリブル"をマスターできる可能性があるということなのだろうか。

「彼とは直接話したこともありますし、本も読ませてもらいましたが、僕自身がすごいと感じたのは、彼自身が学生時代からドリブルを研究して、理詰めで自分流のドリブルを確立したということです。先ほど話したボールの持ち方や持ち出し方は、その典型例です。

 そういう意味で、理論として確立されているので、そのとおりにやれば、ある程度のレベルで真似はできると思います。実際、僕がやっている『対人強化クラス』でも、子どものうちにそのドリブルを身につけられるような指導もしています。

 ただし、三笘君の域に達するには、それだけでは難しいでしょうね。

 彼の縦突破をよく見ると、たとえば前に持ち出す時のボールタッチの精度が異常なほど正確で、しかも持ち出す方向や場所が完璧なんです。これなら絶対に相手が届かない、そして自分が次のプレーに移りやすい、という持ち出し方になっている。

 かなり計算し尽くされていると感じますし、アウトフロントであの正確なボールタッチを試合で繰り返せるということは、相当な反復トレーニングをしないと、あのレベルには達しないと思います。

 それと、これはドリブラーに共通することですが、やっぱり実戦でトライアンドエラーを繰り返すことが、スキルアップのためには欠かせません。その成功と失敗の繰り返しがあって、はじめて自分流のドリブルテクニックが完成していくんです」

 松井氏の解説を聞くにつけ、おそらくプレミアリーグという世界最高峰の舞台で日々切磋琢磨する三笘のドリブルテクニックは、今後もまだ進化を続けていくはず。日本史上最高のドリブラーのテクニックから、今シーズンも目が離せない。

(第2回につづく)


【profile】
松井大輔(まつい・だいすけ)
1981年5月11日生まれ、京都府京都市出身。2000年に鹿児島実業高から京都パープルサンガ(現・京都サンガF.C.)に加入。その後、ル・マン→サンテティエンヌ→グルノーブル→トム・トムスク→グルノーブル→ディジョン→スラヴィア・ソフィア→レヒア・グダニスク→ジュビロ磐田→オドラ・オポーレ→横浜FC→サイゴンFC→Y.S.C.C.横浜でプレーし、2024年2月に現役引退を発表。現在はFリーグ理事長、横浜FCスクールコーチ、浦和レッズアカデミーロールモデルコーチを務めている。日本代表31試合1得点。2004年アテネ五輪、2010年南アフリカW杯出場。ポジション=MF。身長175cm、体重66kg。

プロフィール

  • 中山 淳

    中山 淳 (なかやま・あつし)

    1970年生まれ、山梨県出身。月刊「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部勤務、同誌編集長を経て独立。スポーツ関連の出版物やデジタルコンテンツの企画制作を行なうほか、サッカーおよびスポーツメディアに執筆。サッカー中継の解説、サッカー関連番組にも出演する。近著『Jリーグを使ってみませんか? 地域に笑顔を増やす驚きの活動例』(ベースボール・マガジン社)

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る