検索

世界最強アルゼンチン代表に小柄なDFの伝統 高身長化が進むなかなぜ活躍できる? (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【血で守る】

 ブラジルのCBでキャプテンも務めたオスカー・ベルナルディはCBについて、

「格でプレーするポジション」

 そう言っていた。オスカーは長身の偉丈夫で貫録のあるCBだったが、アジャラも身長に関係なくカリスマ性があった。

 たぶん、このポジションはジタバタしていては務まらないのだ。どっしりと構え、相手が速かろうと高かろうとまったく動じない。相手のほうが高いといっても、せいぜいボール1個分程度。身長だけで空中戦が決まるわけではない。むしろ身長差を埋めようと策を弄するほうが、かえって危なっかしい気もする。アジャラを見ていてそう思った。

 映画『魔女の宅急便』で、主人公の女の子(魔女)が友だちにどうやって空を飛ぶのかと聞かれた時、「血で飛ぶ」と答えていた。

 アニメ映画のセリフではあるが、アジャラも「血」で守っているように見えた。父親もサッカー選手で守備型のMFだったそうだ。身長や小手先の技術より、もっと大事なものがあるのだろう。

 リサンドロ・マルティネスの守備にも「血」を感じる。彼だけでなく、アルゼンチンの選手は全般的にそうなのだ。ボールに足が当たらなければ確実にファウル、そういう深いタックルを躊躇なく繰り出す。恐れがない。代表ではMFだったハビエル・マスチェラーノはバルセロナではCBでプレーしていて、鬼気迫るディフェンスをたびたび見せていた。身長は174㎝だ。

「ブラジルは砂浜のサッカー、アルゼンチンは草原のサッカー」

 これは南米の両雄を比較する時によく使われるフレーズである。ビーチのブラジルは浮き球がうまくなり、深い草でボールが止まるアルゼンチンはフィジカルコンタクトが強くなる。ブラジルのテクニックとアルゼンチンの闘争性の対比だ。

 リサンドロ・マルティネスはスピードがあり、伝統の「血」を受け継いでいるだけでなく、パスが非常にうまい。状況判断のよさもあるが、ビシッと味方の足下につけるインサイドキックそのものがうまい。重心の低さ、芝生に球速を食われないインパクトの強さは、なるほど草原の選手たちの系譜なのだなと納得させるものがある。

「攻撃は才能があればできる。守備は本物の漢にしかできない」

 誰が言ったか忘れてしまったが、たぶんアルゼンチン人だったような気がする。

連載一覧>>

著者プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

【写真】サッカートップスターの美しきパートナーたち

3 / 3

関連記事

キーワード

このページのトップに戻る