世界最強アルゼンチン代表に小柄なDFの伝統 高身長化が進むなかなぜ活躍できる? (2ページ目)
【小柄なCBの伝統】
ところが、小柄なCBの名手も存在する。
ファビオ・カンナバーロは2006年ドイツW杯でイタリアを優勝に導いた立役者のひとりとなり、その年のバロンドール(当時欧州年間最優秀選手)を受賞した。リベロの受賞はあっても、ストッパーの受賞は初めてで、これ以降も例がない。このカンナバーロの身長は175㎝なのだ。ミランとイタリア代表のCBとして活躍したフランコ・バレージも176㎝だった。
イタリアとアルゼンチンはサッカーでは兄弟のように似た関係なのだが、アルゼンチンも小柄なCBを伝統的に輩出している。
アルゼンチンが自国開催のW杯で初優勝した1978年、CBを組んだのはダニエル・パサレラとルイス・ガルバン。パサレラは173㎝、ガルバンもほぼ同じ174㎝。サッカー選手が巨人化する前の時代とはいえ、当時としても小柄なコンビだった。さらに、この低身長CBの前に構えるアンカーのアメリコ・ガジェゴは170㎝。いくらなんでも低すぎる気がするのだが、これで優勝しているのだから守備の中央トライアングルは機能していたわけだ。
ロベルト・アジャラは3回のW杯に出場したアルゼンチンの守備の要だが、やはり身長は177㎝しかない。CBが巨人化していた時代の選手なので小柄な部類である。
アルゼンチンのCBがみんな小柄というわけではなく、長身の選手もいるのだが、アジャラはずっと守備の中心であり続けていた。
なぜ、あの身長で世界トップクラスなのか。その秘密を知りたくて、ある試合でずっとアジャラだけを見ていたことがある。2006年ドイツW杯のラウンド16、メキシコとの試合だ。
対面するメキシコの2トップはフランシスコ・フォンセカとハレド・ボルヘッティ。どちらも身長は182㎝。ものすごく長身というわけではないが、アジャラと並ぶと頭ひとつくらい高い印象だった。
アジャラは自分より高いFWに対して、どんな手練手管を用いるのか。そこに注目していたのだが......。
空中戦は普通に競って、勝ったり負けたり。アジャラのジャンプ力は有名だったが、自分より高いFWを相手にするのは日常だろうから、何か駆け引きがあるのだろうと期待していた。ところが、それがまったくない。拍子抜けだった。しかし、時間の経過とともにジワジワとアジャラの凄さが伝わってきた。結局、アルゼンチンは延長の末に2-1で勝利している。
アジャラはとくに変わったことは何もしていなかった。言い換えると、CBとしての低身長をまったく気にしていない。コンプレックスでない。だから、極めて普通に対応して普通に抑えていた。空中戦に競り負けることはあっても、常に負けるわけでもなく、そのこと自体を何とも思っていない様子。
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