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欧州サッカーでハーランドを筆頭に長身CFが活躍 得点力だけでない重要な役割とは? (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【ビルドアップのキーマン】

 1980年代のマルコ・ファン・バステン(188cm/オランダ)、1990年代のロナウド(183cm/ブラジル)あたりから急にストライカーが大型化した印象はあるものの、得点能力と身長があまり関係なさそうなのはリオネル・メッシ(170cm/アルゼンチン)を見れば理解できる。

 それでも依然として長身CFを据えるチームが多いのは、おそらく得点以外の理由があるからだろう。

 現在、ほとんどのチームがゴールキックからショートパスをつないでビルドアップするようになっている。

 明確にこれをやった最初は、ジョゼップ・グアルディオラ監督が率いるバルセロナと記憶している。それ以前は、ゴールキックはロングキックが主流だった。

 バルセロナが最深部からのビルドアップを始めた2008年は、まだペナルティーエリア内にGK以外の選手が入れないルールだったが、ペナルティーエリアの縦のラインとゴールラインの交差する場所、左右2カ所にセンターバックを配置してゴールキックをスタートしていた。

 グアルディオラ監督はセットプレーのように選手の配置と動き方を浸透させ、のちにポジショナルプレーと呼ばれて世界的に普及していった。現在ではジュニアチームでもゴールキックからつなぐのは当たり前になっている。

 一方で、そうしたビルドアップが普及したことで、それを奪うための高い位置からのプレッシングも行なわれ、そのやり方も急速に整理されてきた。試合開始から20分間ほどは、ビルドアップvsハイプレスの構図が定番化するようになった。以前よりもビルドアップはリスキーになってきたのが現状だ。

 それでもビルドアップ側が強気なのは、数的優位が確実だからだ。

 GKが加わることで攻撃側が11人なのに対して、守備側は10人である。守備側のGKが相手FWをマークしないかぎり、ビルドアップ側は必ずひとり余る。ただし、必ずひとりがフリーになるといっても、守備側がフィールドプレーヤー10人をマンマークしてしまえばパスの受け手はフリーにならないわけで、そういう場合は例えばフリーでボールを持っているGKからFWへのロングパスが多用される。ここでFWが1対1で勝てば、あとはGKしかいないので、これはビルドアップ側の定石でもある。

 そこで、ロングボールを収める、あるいは味方に競り落とせるCFの需要が増しているわけだ。長身でなくてもターゲット役をこなせるFWもいるけれども、高さと強さのあるタイプが求められていると考えられる。

 かつては長身頑健なCFと言えば機動力や技術が物足りない感があったものだが、現在はハーランドを筆頭に「機敏で技術にも秀でた大型CF」が増えてきた。サッカーはアスリート化してきているが、CFはそのなかでもよりフィジカルエリートのポジションになってきたのかもしれない。

著者プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

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