コパ・アメリカ2024で大輪の花を咲かせるハメス・ロドリゲス「絶滅危惧種の10番」はこうして生き残った (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【ひとつのプレーで局面を一変】

 ハメスはメッシより若く、まだハードワークにも耐えうる体力があるようだが、期待はそこではない。

 ひとつのプレーで局面を一変させること。その前提になっているのは、戦況を読みきる能力と針穴を通すようなキックのコントロール、その技術の高さゆえの秀逸なアイデアだ。ハメスはあまりドリブルをしない。その点はドリブル突破がめっきり減ったメッシとの共通項でもある。

 ウルグアイ戦の決勝点をもたらしたのはハメスのコーナーキックだが、それ以外に攻撃面でほぼ何もしていない。それでも勝利をもたらしているわけで、その1分あるいは1秒のためにフィールドにいるわけだ。その瞬間のために彼はあちこちに浮遊しているが、エキストラな存在であるがゆえにチームはそれを苦にしていない。

 今でこそ現世から解脱したように自由なハメスだが、最初からそうだったわけではない。ウイングとして精力的に仕掛け、献身的なボランチとして起用された時期もあった。チームの中に居場所を見つけるためにもがいていた。けれども結局のところ、どこにもはまらなかったのではないか。おそらく生粋の10番だからだろう。

 メッシもバルセロナでデビューした時はウイングだった。ウイングという枠のなかで適応しようと格闘していた。しかし、やがてメッシのポジションはなくなった。9番でも7番でも、全部「偽」になった。メッシはただメッシであればいいということになってから、本物のメッシになっていった。ジネディーヌ・ジダン(フランス)も似た過程を経ていて、チームが組織に組み込むのを諦めてから本領を発揮している。

 ハメスが、ただハメスであればいいと認められているのはコロンビア代表だけかもしれない。これまでも時折クラブチームでそういう時期はあったが長続きはしておらず、今回もコパ・アメリカ限定かもしれない。それでも、人々が忘れかけていた花の色や香りを再認識させてくれた功績は大きいように思える。

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