コパ・アメリカ2024で大輪の花を咲かせるハメス・ロドリゲス「絶滅危惧種の10番」はこうして生き残った (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【「いない」ものとして扱うとうまくいく】

 ハメスに決まったポジションはない。

 右にも左にもいるし、前にも後ろにも動く。漂うようにフィールドを浮遊している。現在のサッカーでは、ほとんどお目にかからない種類の選手と言える。

 ほぼ唯一の例外がリオネル・メッシ(アルゼンチン)だ。90分間の大半を、ただとぼとぼと歩いている。

 この世紀の天才を、アルゼンチン代表はどう扱っていいのか長らく考えあぐねていた。誰と組み合わせたらいいのか、どうやってボールを渡し、周囲はどう動き、守備負担をいかに軽減するか......試行錯誤を続けていた。

 ようやく正解を探り当てたのは、メッシの力が微妙に落ち始めたタイミングである。たったひとりで何人も抜き去って得点する「ラッシュ」の頻度が激減し始めた時期だった。

 2022年のフィナリッシマ(ユーロ=欧州選手権とコパ・アメリカの優勝チーム同士の対戦)で、ユーロ2020の王者イタリアを3-0で下す。この時点でアルゼンチンは回答を出していた。メッシを中心にチームを組織する、あるいは組織のなかにメッシを組み込むのを止めた。ある意味、メッシを「いない」ものとして扱った。すると、これまでのどのチームよりもメッシをチームにフィットさせることに成功し、2022年にはワールドカップ優勝まで成し遂げたのだ。

 今回のコパ・アメリカ2024、コロンビアにほぼ同じことが起きている。

 コロンビアはハメスなしでも戦えるように設計されていて、実際に準決勝のウルグアイ戦では退場者を出して10人になっても、それほど一方的にやられることはなかった。39分にハメスのコーナーキックからジェフェルソン・レルマが先制。ダニエル・ムニョスの退場がその7分後。後半は時折カウンターでウルグアイに脅威を与えながら守りきっている。

 ムニョスが退場になった直後は4-4-1。1トップにハメスが残っていたが、後半から4-3-2にシステムを変えている。2トップはジョン・コルドバとディアスで、ハメスは中盤の「3」に入ってもっぱら守備をしていた。チームの歯車として働いている。ただ、それだけならば他の選手にも代替できるわけで、途中でハメスは交代した。

 ハメスへの期待は、チームの一部になることではない。チームを超越した存在として、たった1回のプレーでもいいから得点を生み出してくれることである。それには残り10人でチームとして成立できていなければならない。

 10番の生息が難しくなっていったのは、ハードワークできない選手がひとりでもいると、支障をきたすと考えられていたからだ。いかに美しく希少でも、大半の時間で役に立たないものを置いておく余裕はない。そんな環境で生き残れるのは、ハードワークできる10番だけだった。

 しかし、ここにきて少し風向きが変わっているのかもしれない。ハードワークのレベルアップが進んだ結果、ひとりくらいはさほど頑張らなくてもチームとしての体裁を保てるようになってきたのだ。

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