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ユーロ2024でオランダを牽引するガクポ 活躍の源は「ひと振りで何かを起こせる」伝統のキック力 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【「強蹴力」はオランダの伝統】

 いかにボールタッチに優れ、すばらしいドリブルができても、それだけでは結果は出せない。パスをつなぎ、シュートを決めるのはキックである。歴代の名手でキックが下手という選手はいない。キックの名手こそ結果を出せるので、キックのうまさはスターの条件になるわけだ。

 1978年アルゼンチンW杯では、オランダは「強蹴力」で決勝まで勝ち進んだ。

 4年前のトータルフットボールのチームからヨハン・クライフが抜けていたオランダは、革新的だったプレースタイルを再現できていない。戦術的には踏襲していたはずなのだが、クライフの個人技と知性を欠いて別のチームのようになっていた。

 しかし、4年前からはかなり見劣りするそのチームでも、同じく決勝までは進めている。2次リーグを勝ち抜けてファイナルへ辿り着けたのは、アリー・ハーンのロングシュートのおかげだった。

 2次リーグ初戦でオーストリアに5-1で大勝したあと、西ドイツ戦(2-2)では1-1に追いつくロングシュート。イタリア戦(2-1)では決勝点のロングシュート。いずれも40mはあろうかという距離だった。ちなみにイタリア戦のエルニー・ブランツの同点ゴールも約30mのシュートである。

 1980~90年代は、ロナルド・クーマンを輩出した。

 PSV、バルセロナで活躍したクーマンは足が遅いので有名だったが、かわりにビルドアップのうまさ、何より精度の高いロングパスがすばらしく、オランダのレジェンドのひとりとなり、ユーロ2024では監督として指揮を執っている。

 クライフがバルセロナの監督として採用していた「偽9番」は、自身の現役時代のプレースタイルであるとともに、クーマンのキック力をあてにしたものだった。CF(主にミカエル・ラウドルップ)が引くことで生じる前線のスペースへ、ほかのFWが走り込み、センターバック(CB)のクーマンがロングパスを届ける。正確なスピードボールを蹴れるクーマンがいてこその戦法だった。

 ドリームチームと呼ばれたこの時期のバルサは、チャンピオンズカップ(現在のチャンピオンズリーグ)初優勝を果たしているが、決勝戦の1点はクーマンのFKからのゴールである。

 ハーンとクーマンはCBまたは守備的MFで、スーパースターというタイプではないが、そのキック力で結果を叩き出した。オランダが3度目のファイナルへ進んだ2010年南アフリカW杯でも準決勝のウルグアイ戦でジョバンニ・ファン・ブロンクホルストが40mのロングシュートを決め、ヴェスレイ・スナイデルの強烈なミドルも武器だった。

 こうしたひと振りの威力はオランダだけのものではないが、キックの強さは蹴り足の稼働範囲によって決まるという説があり、それが本当なら、長身国オランダからキックの名手が途切れなく生み出されているのは納得できるものがある。

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