ユーロ2024で市場価値爆上がり中 ニコ・ウィリアムズはこうしてブレイクした (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

【バスクの教育と土壌が奏功】

「AVION」

 前スペイン代表監督であるルイス・エンリケは、代表デビューさせたニコを「飛行機」と喩えていたが、規格外のスピードスターだ。

 ニコはガーナから移住してきた両親の息子である。パンプローナで生まれ、地元クラブで頭角を現し、11歳の時にオサスナの育成組織タホナルに入団した。ただ、次の年には名門アスレティックの育成組織レサマのオファーを受け、兄イニャキ・ウィリアムズ(アスレティック)がすでに有力なユース契約を勝ち取っていて、母親も含めてビルバオに引っ越すことになった(父はロンドンで働いていた)。

 着実にカテゴリーをステップアップしたニコは、2021年4月にトップデビューを果たしている(アスレティックはバスク人純血主義を信奉しているが、バスク地方で育成年代を過ごせば"バスク人"と認められる)。クロスからのゴールが伝統のチームで、強度や精度が鍛え上げられた。また、バスク独特の教育と質朴さを求める土壌が功を奏し、闘士に育った。

 2022-23シーズン、ニコは10代で定位置を奪うも、スペイン国王杯準決勝で敗れた後に戦犯につるし上げられ、ネットでも炎上している。苦難を過ごしたが、兄イニャキの支えは頼もしく(ちなみに兄はガーナ代表を選択)、2023-24シーズンは奮起。国王杯で3得点5アシストと暴れ回り、優勝を決めたマジョルカ戦後はMVPに選ばれ、雪辱を果たした。

 現時点では、ゴールよりもチャンスメーカーの要素が濃い。実はラ・リーガでも1、2を争うアシスト数を記録。レアル・マドリードのヴィニシウス・ジュニオールをも上回る数字だ。

 そして、まだ化ける力を秘めている。

「ニコは、友達と公園でボールを蹴るようにプレーする。そのポテンシャルは計り知れない」

同じ左サイドを担当するマルク・ククレジャ(チェルシー)は、ニコのダイナミックなプレーに感嘆の声を上げる。

 2022年カタールW杯ではスーパーサブという立場だったニコは、今回のユーロで攻撃の主役に成長している。グループリーグのイタリア戦では守備を伝統にする相手を翻弄。ラウンド16のジョージア戦も、同点弾は彼がマークを引きつけたうえ、預けたボールをロドリ(マンチェスター・シティ)が放り込んだもの。3点目は自らロングカウンターで抜け出し、GKの頭上にボールを突き刺した。

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