ユーロ2024でドイツ代表を蘇らせたトニ・クロース 引退間近の選手の何がすごいのか? (4ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【クロースが入れたスイッチから攻撃は一気に加速】

 MFが少し下がって、リベロ然としてプレーするクロースのスタイルは、新しくはない。ただ、効果は抜群だ。相手にとって、わかりきっていても制御できない。形ではなく質が違うからだ。

 パス成功率100%を記録することもあり、95%超は当たり前。ミスがないだけでなく常に正しい。周囲の味方もとりあえず彼にボールを預けている。正解はクロースが出してくれると理解している。

 コントロールがピタリとキマるので、相手の足も止まる。突っ込んできても余裕でかわせるし、ワンタッチパスでも外せる。選手の価値はトップスピードの技術で判断されがちだが、クロースの低速の技術は別格だ。

 同じポジショニング、似たプレースタイルは誰でもできるが、クロースのようにプレーできるのは本人しかいないのだから、簡単そうに見えて決してそうではないのだ。

 後方でパスを回しつつ、ビルツ、ムシアラ、ギュンドアンの足下へつける縦パスの質とタイミングがすばらしい。クロースが入れたスイッチから攻撃は一気に加速していく。連続するパスは相手守備を後手に回し、相対的に速くなり、わずかな隙間でも通過する。

 狭い場所でボールをつなぎ続ける質を持った選手はすでにいたので、足りなかったのはただクロースだったわけだ。

「画竜点睛を欠く」状態に目が入った。描かれた龍に目が入って本物になる故事のように、ドイツはどこまで飛翔していくだろうか。

プロフィール

  • 西部謙司

    西部謙司 (にしべ・けんじ)

    1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。

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