ユーロ2024でドイツ代表を蘇らせたトニ・クロース 引退間近の選手の何がすごいのか? (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji

【袋小路に入ったチームを救う】

 攻撃するリベロの威力を世界に見せつけた1972年のあと、技巧的なドイツが現れたのは2014年。クロースはこの時の中心選手だ。メスト・エジルとともに組み立てを担っている。当時、バイエルンでジョゼップ・グアルディオラ監督にパスワークを植えつけられたメンバーが中心だった。

 クロースは当時も重要なプレーヤーだったが、現在はそれ以上の存在になっている。

 2014年の世界一は、グアルディオラ監督がバイエルンに導入したポジショナルプレーの効力が大きかった。しかし、10年が経過してポジショナルプレーの効力は半減。今や普通の戦術になったため、ビルドアップにおける位置的優位、数的優位への対抗手段も普及して効果がなくなってきたのだ。

 対抗手段としてのゲーゲン・プレッシングという尖鋭的戦術を提示したのが、ユルゲン・クロップ(前リバプール監督)やラルフ・ラングニック(現オーストリア代表監督)といったドイツ人監督だったのは皮肉だが、近年のドイツ代表はパスワークの威力を削り取られ、袋小路に入ってしまっていた。

 出口の見えない状況を打開したのは、たったひとりの引退間近の選手である。

 15回目のチャンピオーンズリーグ優勝をレアル・マドリードに遺し、34歳でクロースは引退する。今回のユーロ2024のドイツ代表が最後の舞台である。

 ユリアン・ナーゲルスマン監督の要請をうけて、2024年3月のフランス戦でカムバック。開始7秒でビルツの得点をアシストする。そしてクロースを得たドイツは突然見違えるようなチームに変貌した。

 センターバック(CB)の左側に下がり、そこから的確なパスでチームを動かす。このプレースタイルはレアル・マドリードと同じだ。ポジションはMFだが、かつてのリベロと似た機能性である。

 グアルディオラ監督はマンチェスター・シティで「偽CB」を導入した。CBジョン・ストーンズをボランチの位置へ上げる可変システム。形としてはかつてのリベロそのもので、他チームに模倣されまくってきたグアルディオラ監督の新機軸のなかで、これだけはまだコピーされていない。名リベロの多くがMFからのコンバートだったように、MFの資質のあるDFでなければ務まらないからだろう。

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